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【最新の研究紹介】 ADHDっ子は恋愛が得意?

注意欠如多動症(Attention Deficit and Hyperactivity Disorders)、

すなわちADHDの“衝動的で依存しやすい”特性は彼らの恋愛関係に影響を及ぼすのか?

という素朴な疑問から始まったこちらの研究を紹介します。

 

【思春期のADHD青少年らの恋愛事情】

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原文はこちらから↓

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The Romantic Relationships of Adolescents With ADHD

Alan Rokeach and Judith Wiener

Psychology and Human Development, Ontario

Institute for Studies in Education, University of Toronto

Journal of Attention Disorders 2018, Vol. 22(1) 35–45

DOI: 10.1177/1087054714538660

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本記事は株式会社ライデック (RIDC: Research Institute of Developmental Characteristics)発達特性研究所によって作成されました

できるだけ、わかりやすいように英語を日本語に意訳していますが、

データの解釈や内容表現に誤りがあれば、コメント欄にてご指摘ください。

 

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【要約】Abstract

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カナダに住む13歳から18歳の青少年58人(うち30人がADHD)を対象に

恋愛事情を調査し、ADHD者とそうでない者の恋愛の質および中身を比較した。

 

結果として、

  • ADHDの特性をもつ青少年らは、より多くの恋愛相手を持っていたことがわかった。
  • ADHDの女子は恋愛期間が短く男子は初(性交渉)体験が2年近く早かった
  • また、性別に関わらずADHDの青少年は生涯の性交渉相手が2倍近く多かった
  • しかしながら、ADHDの有無による恋愛の質や衝動的行動に差はなかった

 

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思春期の恋愛事情はADHD特性によって影響をうけるかもしれないが、

必ずしもそれは悪影響ではない

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【研究背景】 Introduction

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恋愛はこれまでサイエンスの世界では軽視されてきた。

実際、私も論文で恋愛について読んだことは殆ど無い。

“データが科学的でない”

と思うから研究として成り立たない、

ましてや医学の発展には繋がらないと考えていたからだ。

 

しかし、最近は少し見方が変わってきたようだ。

恋愛は思春期の心の発達とそれに続く成人の機能発達の重要な要素

としてみなされるようになってきた*1

 

良好な恋愛関係は個人のアイデンティティの形成や

同級生との協調性を高めたりすることがわかってきた。

一方で、不良な恋愛関係はアルコールや薬物濫用につながる可能性が高まる*2

 

たとえば、学校で成績不良になったり、暴力を振るったり(振るわれたり)、

大人(教師や両親)と良好な関係を保てなくなったり外面的な症状が表面化してくる*3

 

そのような背景から、近年では思春期の子どもを対象にした

恋愛の研究調査はその数が増えてきている。

 

しかし、そういった調査で対象となる子たちは

定型発達(typically developing: 以下、TD)であり、

ADHDのような発達障害の子を対象にした恋愛調査の報告はほとんどされていない

 

ADHDの青少年らはその特性(忘れっぽかったり、気が散ったり、混乱したり)から

衝動的で暴力的な言語的および物理的発散を有する可能性がより高い*4

ADHD特性が彼らの恋愛関係に悪影響を及ぼしている様子は想像に容易い

 

 

Alan(筆者)らは過去にADHDの青少年の活動を調査した2つの研究結果*5*6から、

次のように結果を推測していた。

 

  • ADHDの青少年は、付き合い始める年齢は遅いが、TDの子らと比べて「より若い」年齢での性行為や付き合っている子以外との性行為が起こるのではないか。
  • ADHDの青少年は、付き合っている子に対して「より高い不満、葛藤、積極的な行動」がみられ、一方で「より低い愛情、心遣い、配慮」になるのではないか。
  • ADHDの青少年は、危険な性行動(例えば、避妊のない性行為、望ましくない妊娠、乱交、薬物またはアルコール、性感染症)のリスクが高まるのではないか。

 

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つまり、ADHDの青少年らはTDの子らに比べて

恋愛が苦手で、付き合いが「より遅く」、「より少なく」、「より短い」

と筆者らは予想していたようだ。

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【研究結果】Results

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本調査では青少年における恋愛関係を以下の3つの特徴にわけて定義し、

ADHDの有無が恋愛にどのように影響を及ぼすかを調べている。

1.恋愛における相手との関わりあい

2.その関係性の中身

3.その関係性の質

 

本調査に参加した子らはカナダに住んでいる中高生(13~18歳)を対象に行われた。

参加者はADHDが30人(うち女子40%)、TDが28人(うち女子57%)であった。

ADHDはConnerの評価尺度*7を用いて評価された。

 

参加者のADHDの青少年の約半数が興奮性の治療薬を服薬しており、

8割が何らかの併存疾患*8をもっている点は結果の考察に注意が必要である。

 

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図1. ADHDとTDの恋愛・性的関係の比較

 

ADHDの青少年らは、TDの子らよりも多くの恋愛経験があることがわかった

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女子において、最長の恋愛継続期間がADHDグループでより短くなっていた

ただ、初めて付き合った年齢は両群とも13〜14歳で差はなかった(表1)。 

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また、男子において、ADHDグループの初体験が少し早いことがわかった。

そして、ADHDの青少年は(性別によらず)性交渉の経験相手の数が多かった(表2)。

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ADHDの青少年らが性的危険行動を取りやすいのかアンケート調査した結果がこちら。

過去一年の間にカジュアルセックスをしたと答えた人が10人中6人と多かった。

また、これまでの経験相手が4人以上と答えた人が10人中4人もいた (表3)。
 

筆者らは、この結果は非常に重要な意味を持っていると述べている。

なぜなら、思春期の早い時期に多数の性交渉相手を持つことは

のちの悪い結果(HIV感染、薬物の乱用など)の原因になりかねないからだ 。

 

しかし、性交渉相手の多さにも関わらず、

性行為中のハイリスクな行動*9はADHD特性の有無に関係がなかった。

また、性的虐待や言葉や感情による暴力、脅迫行動などもADHDと関係はなかった。

 

【結論】Conclusion 

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ADHDの青少年の恋愛にネガティブな結果は見られなかった

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私はこの論文の結果を非常に面白く受けとめている。

確かに、“ADHD特性があることで、恋愛がうまくいかない”という一面はあると思う。

しかし、この結果を見ると筆者らの予想よりも遥かにADHDの子らは恋愛が上手だ

 

性交渉の相手が多いという結果はよく見ると、30人いるADHDの青少年のうち、

これまでの経験相手が4人以上と答えた4人が大きく数値を底上げしているので、

ADHDの特性が影響しているかどうかは判断しづらい。

 

 

それに、国によって恋愛事情は大きく異なるだろうと思われるので、

一概にADHDだから○○だと結論付けることはできないことには注意が必要だ。

今回はカナダの中高生の調査であるが、日本国内の恋愛事情とは大きく異なるのは明らかだろう。

 

今回のリミテーションとしては、参加している人数も少なく、

評価手法が質問紙のみである点も少し信頼性に欠けると思われた。

また、ADHDと同時にLDやうつなどを合併していることも解析には含まれていない。

 

 

ただ、こういった恋愛研究は少ないことから、

この研究の調査結果が非常に重要な意味を持つことも確かだと思っている。

 

ADHDの青少年にとっての恋愛の難しさが、彼らの特性からくるものだとわかれば

両親や先生、彼らに関わる周囲の人にとってサポートしやすくなるだろう。

それがハイリスクな行動やのちの悪い結果を防ぐ手助けとなってくれることを願う。

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*1:

Giordano, P. C., Manning, W. D., & Longmore, M. A. (2006). Adolescent romantic relationships: An emerging portrait of their nature and developmental significance. In A. Crouter & A. Booth (Eds.), Romance and sex in adolescence and emerging adulthood: Risks and Opportunities (pp. 127-150). Mahwah, NJ: Lawrence Erlbaum.

*2:Woodward, L. J., Fergusson, D. M., & Horwood, L. J. (2002). Romantic relationships of young people with childhood and adolescent onset antisocial behavior problems. Journal of Abnormal Child Psychology, 30, 231-243.

*3:

Zimmer-Gembeck, M., Siebenbruner, J., & Collins, W. (2004). A prospective study of intraindividual and peer influences on adolescents’ heterosexual romantic and sexual behavior. Archives of Sexual Behavior, 33, 381-394.

*4:

Barkley, R. A. (2006). Attention-deficit hyperactivity disorder: A

handbook for diagnosis and treatment (3rd ed.). New York,

NY: Guilford Press.

*5:

Canu, W. H., & Carlson, C. L. (2003). Differences in heterosocial

behavior and outcomes of ADHD symptomatic subtypes in a

college sample. Journal of Attention Disorders, 6, 123-133.

*6:

Babinski, D. E., Pelham, W. E., Molina, B. S., Gnagy, E. M.,

Waschbusch, D. A., Yu, J., . . .Karch, K. M. (2011). Late

adolescent and young adult outcomes of girls diagnosed with

ADHD in childhood: An exploratory investigation. Journal of

Attention Disorders, 15, 204-214.

*7:

Connerの評価尺度

調査は「保護者」「教師」「本人」に対して行われ、複数の回答者からの情報をもとに包括的に評価を行う。この評価法はADHDと関連性の高い症状を評価する6~18歳の児童・生徒を対象とした検査として知られている。

*8:併存疾患

学習障害(LD)が大部分だが、不安症やうつ病、反抗挑戦性障害も含まれる

*9:薬やアルコールの使用、避妊具の未使用や危険日の行為

自分を知り、自分をかえていく