株式会社ライデック(発達特性研究所)の公式ブログ

【風邪は万病のもと】子どもの頃に感染症に罹ることで精神疾患を発症しやすくなる?

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お久しぶりです。ライデック広報のサハラです。

前回の更新からしばらく空きましたが、また少しずつ再開していきます。

 

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前回、前々回と妊娠中の薬の影響について論文を紹介してきました。

www.tsudanuma-ridc.com

 

www.tsudanuma-ridc.com

 

妊娠時の薬物の危険性については、子どもの神経発達に影響を及ぼすことから神経科学領域ではよく研究され、よく議論されています。

 

さて、今回は子ども時代に感染症に罹患することで、思春期以後の精神疾患発症のリスクが上がるかどうか調査した研究を紹介します。 

 

 

免疫が十分に発達していない子どもはよく感染症に罹患する。感染症に罹患したり、処方薬を飲むことで将来の子どもの精神疾患発症リスクを上げると聞くと、多くの人が不安になるのではないだろうか。(キャッチーなタイトルを付けたが)タイトルの言葉通りに受け取るのではなく、読者が自分自身で正しく結果を解釈してもらいたいと思う。

 

この論文は、医療ニュースを配信している“Medical Tribune”にて紹介された記事を読んで知った論文だ。この医療ニュース記事では、とても簡潔に最新の医療情報がまとめられている。興味のある方はぜひ会員登録して購読してみてはいかがだろう。

 ⇒感染症罹患で精神障害リスク上昇|医療ニュース|Medical Tribune

 

弊社では特に発達障害に関してのデータを中心に紹介していくので、発達障害以外の結果は簡単にしか触れていない。もし、医療関係者などでもっと詳しく知りたい方は原著論文のデータも見てみて欲しい。

JAMA Psychiatry Online

  

薬を服薬することによる不安がある方は多くいるはず…ということで、弊社では次のような無料プログラムを月に1回程度行っています。

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【感染症の罹患と精神障害の発症リスクについて

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原著論文はこちらから↓

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Title|A Nationwide Study in Denmark of the Association Between Treated Infections and the Subsequent Risk of Treated Mental Disorders in Children and Adolescent

Author|Ole Köhler-Forsberg et al.

Institution|Psychosis ResearchUnit, Aarhus University Hospital, Skovagervej 2, DK-8240 Risskov, Denmark

Journal|Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2018;1–8.

DOI |10.1001/jamapsychiatry.2018.3428

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【要約】Abstract

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今回紹介するのは、1995年~2012年にデンマークで出生したすべての人を対象にした大規模なコホート研究の結果だ。国民登録データベースを利用し、出生後の子どもの「感染症への罹患」と「精神疾患の発症」の関連について解析している。 

 

結果をまとめると、以下の通りだ。

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  • 全体(1,098,930人)の約4% (42,462人)が精神疾患の診断をうけ、約5% (56,847人)が向精神薬を処方されていた
  • 入院を要した重症の感染症に罹患した子どもは、精神疾患の発症リスクが1.84倍に高まった
  • 治療薬を服用した(入院を要さない)軽症の感染症に罹患した子どもは、精神疾患の発症リスクが1.40倍に高まった
  • 感染症に罹患した回数、服用した治療薬の種類が多いほど、精神疾患の発症リスクは用量依存的に高まった
  • 精神疾患の診断をうけた子どもの半数以上が発達障害であり、そのうち約3割が感染症による入院を経験していた
  • 入院を要した重症の感染症に罹患した子どもは、ASD, ADHDの発症リスクがそれぞれ2.09, 1.54倍に高まった

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【研究背景】 Introduction

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<これまでにない規模のコホート>

以前から、感染症と精神疾患の関連については調べられてきたが、ほとんどが成人を対象にしており、精神疾患も統合失調症やうつ病に限られていた。また、これまで調査されてきた感染症は「入院を要する」ような比較的重症なケースであった。今回の研究は、小児期から青年期までの幅広い年齢 (1~18歳)を追跡しており、かつ病院にかかった全ての感染症例(および感染症治療薬)と精神疾患例(および向精神薬)を含めた大規模なコホート研究である。

 

<発症リスクにつながる原因を探る>

小児期から青年期までの「感染症の罹患」は「精神疾患の発症リスク」をあげる環境要因の一つだと考えられている。しかし、リスクに直接つながるような原因は詳しくわかっていない。それが重症の感染自体によるものなのか、処方された治療薬によるものなのか、またそれらの積み重ねによるものなのかは一切不明だ。

 

そういった環境的要因の原因を探るべく、「感染症」について感染症に罹患した回数、治療薬の数、治療薬の種類、感染症による入院の有無、最後に入院してからの経過期間等、詳細に項目を分けて解析を行ったようだ。

 

解析はCoxの比例ハザード回帰モデル*1を用いている。また、上で述べた感染症の項目のほか、共変量として年齢や性別、両親の最終学歴および精神疾患の既往・現病歴、チャールソン併存疾患指数*2を用いている。

 

この研究の目的は次のとおりである。

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どういった感染症の罹患、どういった治療が精神疾患発症リスクを上げるのかを調査する

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【研究結果】Results 

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<なんらかの精神疾患を発症した子の割合>

下図は調査期間の1995年1月から2012年6月30日の間にデンマークで出生した18歳以下の子どもたちのうち、精神疾患と診断された人の割合である。全ての精神疾患を含めて約4%の数字は非常に低いように思える(ちなみに以前、紹介したスウェーデンの疫学調査の研究では、2011年時点のADHD者のみで約5%の有病率だった)。おそらく、この低い数字の理由は「処方薬」が出されなかった非薬物療法の精神疾患が含まれていない影響もあるだろう。

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<なんらかの感染症で入院したことがある子の割合>

下図では精神疾患と診断された人のうち、入院を要する(重症の)感染症に罹患した経験のある人の割合を赤で示した。何らかの精神疾患と診断された人のおよそ3割が過去に感染症により入院していたことを示している。

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ハザード回帰モデルによる解析によると、感染症で1度でも入院したことがある人は、のちに精神疾患の診断されるリスクが1.84倍となることがわかった。細菌性・ウィルス性のどちらの感染症であっても、入院した人のリスクは上昇していた。

 

また、入院の有無に関わらず、感染症の治療薬を1度でも飲んだことがある人はリスクが1.44倍となることがわかった。治療薬の中では特に抗菌薬のリスクが最も高かった。感染症罹患によって処方されるのはほとんど抗菌薬であるため、感染症の治療薬を飲んだことがある人=抗菌薬を飲んだことがある人になり、これが上記のリスク上昇につながっている。抗ウィルス薬などの治療薬ではリスク上昇はみられなかった。

 

<発達障害児と感染症で入院歴がある子の関連>

下図では、精神疾患と診断された人の疾患別の内訳を示した。ICD-10コード*3に基づく病気の分類でいうと、F80-99 までの障害 (青)が約8割で全体の大部分を占めていた

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自閉スペクトラム症 (ASD)や注意欠如/多動症 (ADHD)に注目すると、ともに約3割の人が過去に入院を要する(重症の)感染症に罹患した経験があった。ハザード率比はADHD, ASDがそれぞれ2.09, 1.54と有意にリスク上昇を示した。また、ASDやADHDの診断を受けた人のうち、感染症の治療薬を使用したことがある人はほぼ全員 (97-99%)なので、薬を服用したかどうかが発症の引き金となったかどうかはこの研究結果からはわからない。

 

【結論】Conclusion  

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“感染症の罹患” および “薬の服用” が発達障害のリスクを増大させる環境的要因の一つになりうることがわかった。

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<日本でも正確なコホート研究を>

 

こうして数字で見ると精神疾患がいかに身近な疾患であるかということがよくわかる。また、精神疾患と診断された子らの半数以上が発達障害であり、近年の増加を考えるとその数はもっと多くなるだろう。わが国でも近年、テレビなどのメディアで取り上げられ、発達障害の認知度は高まってきたが、まだまだ社会への理解は広まっておらず、情報発信の多くは研究者や当事者によるものである。

 

北欧のような「全国国民登録データベース」(=国民の健康記録が一元管理されているデータベース)を研究に利用できる国は研究の進展も早い。小児期および青年期の感染症の罹患や治療薬の服薬によって、子どもの脳の発達に悪影響を与える可能性がはっきりと分かれば、リスクを抑える対策をとっていくこともできよう。 わが国でも早急に現状の国民の健康を把握できるシステム構築をし、同様のコホート研究ができるような環境にすべきではないだろうか

 

<研究結果のすべてを真に受けてはいけない>

このような大規模コホートの弱い部分はデータの欠損や不均一性だ。このようなコホート研究の結果をみると、ハザード率比やリスクの数字に目が行きがちになる。さて、今回の結果を素直に受け取ると「感染症に罹患」⇒「治療薬(抗菌薬)を服用」⇒「精神疾患を発症」と誤解を招きかねないので幾つか意見を述べておきたい

  • 感染症に罹患した回数や使用した治療薬の種類や用量が増えれば増えるほど、精神疾患リスク (HRR)で病院にかかるリスクや向精神薬の服用リスクが増大したという話

処方された薬の量や種類が増えるということは、それだけ病院に通院しているということでもあり、精神疾患の診断をうける機会が増えたり向精神薬の処方が増えるのは当然である。つまり、感染症による罹患や治療薬を多量服用したことによる悪影響だとは言い切れないということだ。

 

  • 感染症の治療薬を服用した子どもは、精神疾患の発症リスクが40倍に高まったという話

⇒治療薬を服用したことがある子どもは98.3%で、1度も服用したことがない“丈夫な子”はたった1.7%しかいない。服用したことがない“丈夫な子”を1とした時のハザード比だ。一度も病院で抗生物質を飲んだことがないような子が急に精神疾患で病院にかかるとは思えないのは私だけだろうか。少なくとも、服薬することに対して過度に心配する必要はないだろう。

 

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 発達特性研究所 (RIDC: Research Institute of Developmental Characteristics)

本記事は株式会社ライデックによって作成されました。できるだけ、簡単でわかりやすい言葉で、英語を日本語に意訳していますが、データの解釈や内容表現に誤りがあれば、コメント欄にてご指摘ください。また、弊社HPTwitterにてさまざまな発達特性情報を発信していますので、興味のある方はそちらもチェックしてみてください。

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*1:ハザードの推定値(ここでは精神疾患の発症率)をプロットして算出する統計モデル(データを当てはめるグラフの式)のことをCox の比例ハザードモデルという。

*2:精神疾患は併存疾患が多いので、疾患単独の予測式ではなく、複数の併存疾患がある場合の総合した予後予測式のための指標のことをチャールソン併存疾患指数という。

*3:疾病及び関連保健問題の国際統計分類コード。「F」が精神及び行動の障害に当たり、F00-F99まで細かく分類されている。F80-99 までの障害には言語や運動の発達障害や学習障害、アスペルガー症候群や自閉症、多動性障害などが含まれている。

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