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心理士が考えたい”知能検査を受けること”の意味

こんにちは。

ライデックのスタッフで心理士の田汲です。

今日から何回かに分けて、私の担当する記事では知能検査について書いていきたいと思います。

 

 

今日のタイトルは、「心理士が考えたい”知能検査を受けること”の意味」。

 

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知能検査は、医療機関や児童相談所などの公的機関でもよく使われているツールのひとつです。

多くの検査では、きちんとした統計的な処理の上でIQという数値が示されます。

検査によって得手不得手や知的な力の年齢水準などを見ることができ、所見には支援策や支援の方向性が書かれることも多いです。

 

これらのことを踏まえると、“数字で結果が出て、能力が構造的に把握でき、対策が示せる”検査は客観的でわかりやすく、重宝されるのも頷けますよね。 

 

 

一方で、心理士として、個人的には“知能検査をとることがどういうことなのか”が理解されないまま検査が行われることに、実は危機感をもっている部分もあります。

 

 

 知能検査って何がどんな風にわかるのか。検査を受けて何に役立つのか、どう使われるのか。検査を受けることのデメリットは存在するのか。

今日はそのあたりを、私の視点で整理してみたいと思います。

 

心理士の視点でありつつ、私個人の考えも含まれますので、その点留意してご覧いただければと思います。

 

 

知能検査が示すもの

ざっくり知能検査と言っても、いろいろな検査があります。

有名なのは、WAISやWISCなどのウェクスラー式、田中ビネーⅤなどのビネー式でしょうか。

実は、これらの検査で示されている「知能」は検査によってその定義がさまざまで、検査からわかることもそれぞれ異なります。

 

たとえば、ウェクスラー式とビネー式の違いはこんな感じです。

 

 

知能の定義

検査で得られるIQ

ビネー式

知能検査

外界を全体として再構成するための認識能力

精神年齢(MA)と生活年齢(CA)から知能指数(IQ)を算出

ウェクスラー式

知能検査

目的的に行動し、合理的に思考し、環境を効果的に処理するための、個人の集合的ないしは全体的能力

全検査IQ(FSIQ)、言語理解指標(VCI)、知覚推理指標(PRI)、ワーキングメモリー指標(WMI)、処理速度指標(PSI)

 ※ビネー式知能検査は田中ビネ―Ⅴ、ウェクスラー式知能検査はWAIS/WISCⅣに則って説明しています

  

ビネー式の大きな特徴としては、知的な能力がどの年齢水準にあるのかを把握できることでしょうか。

ちなみに田中ビネーⅤでは、14歳以上であれば、結晶性・流動性・記憶・論理推理の4つの指標の偏差値IQの算出もできるようになっています。

 

一方、ウェクスラー式の特徴のひとつは、偏差値IQが算出されること。つまり、同年齢集団の中で、自分の力がどの位置にあるかを見ることができます。

もうひとつの大事な特徴として、個人内差がわかるということです。

たとえば、言葉を扱うのは得意だけど、見たものを判断するのはちょっと苦手だとか、その人の中での得意・不得意が見られるということになります。

 

検査者は、これらのような検査の違いを理解した上で必要な検査を選び、施行することが求められます。

同時に、 検査だけでわかることの限界を知り、検査を受ける方がわかりやすいように説明できることも重要です。

 

 

なんのために検査をとるのか?

検査の目的はさまざまですが、一般的には

・数字(IQ)だけではなく、能力の特徴を知ること

・能力に合わせた対策や支援に繋げること 

この2つは、おおむねどの検査にも共通していえることだと思います。

 

単一のIQ値のみでは把握できないことがあるというお話は、弊社代表の松澤が当ブログでも書いています。

詳しくはぜひ記事を参照してみてください。

 

www.tsudanuma-ridc.com

 

検査って、そのための時間や費用を作って、どんなことをするんだろう…と考え緊張しながら、皆さんわざわざ受けに来てくださいます。

たくさんの労力を使って受けた検査で、ただ数字が出た・結果がわかっただけではもったいないと思いませんか?

 

大事なことは、自分の力にはどんな特徴があるのか。

ふだんの生活で感じている困りごとは、その特徴とどんな関連がありそうなのか。

もし関連があるなら、具体的にどんな対処法があり、支援が受けられるのか。

これらをご本人、時にご家族や支援者の方が知り、これからの生活に活かしていくことなのではないでしょうか。

 

 

検査結果が活かされる場面

知能検査は結果を活かすことが大事、というお話をしました。

では、検査結果って、具体的にどんな場面で活かされるものなのでしょうか?

 

 

1つ目に、日常生活上の困り感など、個人的な対策に活かすことができます。

たとえば、耳で聴いて覚えることが苦手だとわかった人がメモ帳を利用することは、これに当てはまります。

このあたりのお話は、次回以降検査を活かす方法の記事でお話しますね。

  

2つ目に、診断や手帳など、医療や福祉支援の利用に繋げることができます。

 

診断については、"検査を受けることで診断名がわかる"と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、診断に検査が必須!というわけではありません。

発達障害などに多く見られるプロフィールパターンの研究もされてきましたが、やはりこれも個人で幅がある、という理解に落ち着いてきています。

しかし、ご本人の特徴を把握するために補助的に検査を利用し、検査結果もふまえて診断されることも多いかなという印象です。

 

手帳の取得については、障害者手帳のうち知的障害のある方が対象となる「療育手帳」の取得のために知能検査が必要になります。

おおむねどの自治体でも、児童相談所や自治体の障害者相談センターで検査を受けられるようになっています。

手帳の取得により、さまざまな手当や助成を受けることが可能になります。

 

たとえば、習志野市の場合だとこんな感じ。

療育手帳(知的障害者手帳) 習志野市ホームページ

 

そのほかにも、公立小学校・中学校の支援級利用においては、知能検査の結果も含めた総合的判断によって利用の可否が判定されることも多いです。

  

検査結果は、日々の工夫のために直接に利用すること・手帳を始めとした行政の支援を受けるために間接的に利用することができるんですね。

 

 

検査を受けるデメリットはあるのか

では、検査を受けることのデメリットって、何かあるのでしょうか?

 

それは、検査を受けること自体というより、

検査でわかることや結果によってすすめられる支援等がわからず、心の準備のないままなんとなく受けてしまうことによる、"心理的なデメリット"ではないかと考えています。

 

これまで説明した通り、検査はIQという明確な"数字"が出てしまうもの。

検査でわかることがすべてでは決してないのです、ないのですが、数字の衝撃は人によってはとても大きなものにもなりえます。

 

また、結果によっては"障害"というネーミングが付随したり、結果に伴った支援をすすめられることもあります。

これにより、確かに適切な支援を受けられるというメリットがあります。

その反面、何の見通しももっていない状態で告げられることは、やはり人によっては心理的なショックを伴うものにもなりえるのではないでしょうか。

 

検査を受けるメリット・デメリットをしっかりお伝えして話し合いをしながら、心の準備も一緒にしてもらえるようにできる限りのお手伝いをしたいな…というのが、心理士としての私の個人的な考えです。

 

 

 検査を受ける適切なタイミング

支援を受けるために検査が必要な場面があること、検査でわかることを知らずに心の準備がないまま受けると心理的なデメリットがあることは、先に述べた通りです。

 

そうすると、検査を受けるタイミングも慎重に考えた方がよいだろう、というのが心理士として言えることです。

 

知能検査は何度も受けることが推奨されるものではありません。

なぜかというと、毎回受ける検査は同じものになるため、何度も受けると中身や手順をある程度覚えてしまい、本来の力より高い数値が出てしまう可能性があるからです。

岡田、水野ら(2010)の研究では、WISC-Ⅲでは2年以内の再検査をすることで、検査の得点の上昇が認められたという報告がされています。

 

本来持っている力と異なる数値が出てしまい、手帳や特別支援などの必要な支援を受けられないのは、とても悲しいことですよね。

 

なので、 

・本人の状態と、必要だと思われる支援の見通しをもって検査を受けること

・本人や家族が、そのための心の準備を整えて検査を受けること

…が、本来的には推奨されてほしいなと考えています。

 

 

長くなりましたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました!

ライデックのプログラムでお会いできた際には、こんなお話もどこかでできたらな〜と思っておりますので、よろしくお願いいたします。

 

 

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