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スマホ依存 (Smartphone addiction)について考える_(1)

  【スマホ依存 (Smartphone addiction)について考える

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 ライデック学術広報の佐原です。この頃、弊社でも10〜20代の若者を中心に、スマホ依存に悩む声が聞かれるようになってきました。私もミレニアル世代(20代)の大学院生です。スマホは日常に欠かせませんし、ない生活は想像できません。ゲームや動画サイトで時間を浪費することもしばしばあり、「時間がもったいない」と思いながらも使ってしまうことには思い悩んでいます。

 

 特にここ2〜3年のスマホデバイスの普及は目覚ましいものがあります私はiPhone3Gから使い続けてスマホ歴が約10年になりますが、当時とは比べ物にならないくらいスマホが生活に侵食してきたと実感しています。天気予報やニュースのチェックも、スケジュールの管理も、買い物の支払いも、全てスマホで済んでしまいます。トイレでも、お風呂でも、食事中も、寝るときもスマホと一緒…そんな生活は、まさにスマホ社会の特徴です。

 

 そこで、今回から2回にわたり“スマホ依存”について取り上げてみます。ゲームとは異なり、スマホはより多くの人と関わりがあります。誰もが他人事ではいられない社会になりつつあると思います。“依存”という言葉は気軽に日常会話の中で使われていますが、果たしてどこから“依存症”として治療を考える必要があるのでしょうか。1つの論文を取り上げるのではなく、私なりに総括してみようと思います。

 

第2回はこちら → スマホ依存 (Smartphone addiction)について考える_(2) - RIDC_JPのブログ

 

目次________________________

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【加速するスマホ依存の実態】

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スマホがない生活を思い出せますか? 

 

 実はiPhoneが初めて米国で発売されたのは2007年、ほんのわずか10年前です。そして、スマホが持ち運べるパソコンのような位置づけになったのはさらに最近のことです*1。つまり、(遠い昔のようですが)スマホが爆発的に普及して生活の中心になってきたのはせいぜい数年前のこと、そんなに昔ではないんですよ。

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H29 情報通信白書より

 

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 スマホ依存の研究はスマホが人々の手に渡り始めた2010頃からスタートしています。PubMedで“Smartphone addiction(スマホ依存)”を検索したところ、ここ3〜4年でその論文の数は爆発的に増えていることがわかりました

 

 

 
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  また、90年代から報告がある “Internet Addiction(インターネット依存)”もPubMed検索してみました。文献数は484 ⇛ スマホの約5倍。こちらも、スマホの普及に伴ってここ3〜4年で爆発的に増えており、最近はよりインターネット依存の研究も注目を集めてきていることがわかりました。

 

 

2017年の総務省の調査によると、日本のスマートフォンの普及率は全体で6割を超えています。最も多い20代で94.5%、続く30代・40代でも91.7%・85.5%と高く、誰しもが持っている時代になりつつあります。もちろん、使い道は個々人や世代によって大きく異なってきますから、所持しているだけでスマホ依存になるわけではありません。依存の対象となってしまうのは、スマホがあまりにも身近で手軽なインターネット接続機器となり、インターネットを通じたゲームやSNSに没頭しやすいからなのでしょう

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H29 情報通信白書より

 

未成年は特に要注意!?

 

 日本政府の調査ではインターネット利用者の割合が最も多いのは20-29歳で、その割合はなんと99.2%とほぼ100%です。そして、13−19歳の未成年が98.4%とそれに次いで多くなっています。未成年のスマホの所持率は8割ほどですが、インターネット(ゲーム)にハマってしまう人のほとんどが未成年なんだといいます。

 

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 どうやら未成年がスマホを持つと、親の管理があるにも関わらず(?)、インターネットを長く利用してしまうようです。総務省が調査したスマホ利用者のインターネット利用時間によると、2012年で133分、2016年で143分と10代が全年齢層でトップの利用時間です

 

 

 

 10代や20代は平日1日あたり(スマホからの)インターネット利用時間が120分を超えています。2時間もインターネットにつないで何をしているのか。その答えは“Social Networking Service = SNS”のようです。日本だとLINE、Facebook、Twitterあたりが有名でしょうか。一言でSNSといっても、最近はただのコミュニケーションツールではありません*2。SNSはスマホの中核であり、社会の基盤を支えるツールになってきています。

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H29 情報通信白書より

 スマホでインターネットを利用する時間の大部分がSNSでしたが、10代や20代をよく見るとそれ以外も多いことに気づきます。特に「ゲーム」や「動画」が長い時間を占めていることがわかります。スマホ依存の実態はこの「ゲーム」の部分にあると言われています

 

 (依存治療で有名な)久里浜医療センターは日本で初めて「インターネット依存専門外来」を設けて治療を行っている病院。センター院長の樋口進氏が取材に応じた記事がネット上に上がっていたので紹介します(以下、一部抜粋)。

ネット依存症の70%が未成年

――インターネットに依存する人数は現在、何人程度いるのでしょうか。

 2017年に行った全国の中高生を対象とした実態調査では、インターネット依存症が疑われる人の推計値は93万人でした。中高生における2012 年の推計値は52万人だったので、5年で約1.8倍に増えている計算となります。また、2013年の調査と少し古いですが、成人においては421万人という推計値が出ています。

――インターネット依存症が原因で久里浜医療センターを受診する患者の分布について教えてください。

 未成年者が約70%で、平均年齢は18.5歳です。男女比については、男性8に対して女性が1です。ネット依存に関する患者の90%はゲームに依存しており、そのうちのほぼ全てがオンラインゲームです。一方、女性ではLINEなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に依存してネットから離れられないという症例もあります。

(引用:久里浜医療センター・樋口進氏に聞く―Vol. 1

 

 

 

【インターネット依存とスマホ依存の違い】

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 スマホの“ネット”かパソコンの“ネット”か

 

 常に所持しているスマホを介したネットアクセスが一般化したことから、パソコンに依存する形から携帯できるスマホに依存するという新たな形をとるようになったといえます。スマホは全年齢で所持率が高くなってきていて、インターネットもゲームもショッピングも恋愛もギャンブルも何でも出来てしまうスマホなだけに、事態は思っているよりも深刻かもしれません

 

  私はこの記事を書くまでは、スマホ依存とインターネット依存の明確な差はないと思っていました。なぜなら、スマホ依存もインターネットを媒介するものだからです。その発想は半分正解です。両者の構成概念は類似しており、互いの依存には相関があることがわかっているからです*3。つまり、スマホの依存度が高い人はインターネットの依存度も高くなります

 

 ただ、スマホのネット利用時間というのは年々増えてきています。これは、私も実感する部分があります。

  • 電車に乗ると、当たり前のようにスマホを見ていませんか
  • 特に何も用がないのに歩き「ながら」や寝「ながら」スマホを持っていませんか?
  • 少しだけ調べ物をする予定が、気がつくと長い時間ネットサーフィンしていませんか?
  • 自宅で以前ほどパソコンを起動しなくなり、代わりにタブレットやスマホで何でも済ませていませんか?

これらは私が思い当たったほんの一例です。2〜3年前と比べて、間違いなくスマホを触る時間が増え、そしてネットを使う時間が増えてきています。 

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H29 情報通信白書より

 総務省のアンケート調査では、スマホのネット利用は自宅や移動中に特に増えているようです。ちょっとしたすきま時間でもスマホで出来ることが増えたんですよね。一方で、パソコンのネット利用は職場で増え、自宅で減っています。「パソコンは仕事、スマホはプライベート」このような選択嗜好が最近の風潮だと、調査の結果からわかります

 

どっちも“ネット依存”なのでは?

 

 それでは、なおさら「スマホ依存=ネット依存」なんじゃないか、と思いますよね。しかし、厳密には「スマホ依存はインターネット依存とは独立して考えていくべきだ」と“スマホ依存”を研究している多くの論文には書かれています(ちょっとご都合主義な気もしますね)。

 

ここで、それぞれの定義を取り上げてみます。

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スマホ依存とは、

スマートフォンの過剰使用によって日常生活が侵害されること、さらにスマートフォンを使用できない状態になると不安や焦燥感などの禁断症状が現れる状態である*4

インターネット依存とは、

寝食を忘れてインターネットにのめり込んだり、インターネットへの接続が止められないと感じられたりなど、インターネットに精神的に依存した状態*5

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 従来のインターネット依存は誰もが想像するような「オンラインゲームに没頭して、部屋から動けなくなり、寝食すらままならない状態」で概ね正解でしょう。しかし、スマホは場所を選びません。スマホの場合、インターネット依存よりも「如何なる状況においてもスマホを持っていたい。手元にないと不安になる」といった“端末を携帯することへの依存”が問題になってくるといいます。

 

  スマホ依存はインターネット依存と共通する部分もありますが、スマホには、携帯性、リアルタイムのコミュニケーションという特徴があるため、スマホ依存の症状はインターネット依存や携帯電話依存と異なる可能性が出てきています*6。千葉大教育学部研究紀要では、パソコン端末よりもスマホの方が依存性が高いという可能性を指摘していて、スマホ依存はインターネット依存とは異なる依存の問題として取り組んでいく必要があると述べられていました*7

 

 

【スマホ依存は病気か否か】

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スマホ依存は病気と定義されていない 

 

 依存症*8という名前でよく使われますが、アルコールやオピオイドのような薬物依存やギャンブルのような病的賭博(行動嗜癖)とは異なり、決して精神疾患として正式に定義づけられているわけではありません*9

 

  • SNSで人とつながりを感じていたい
  • オンラインゲームで強くなって人に認めてもらいたい
  • フリマアプリで高価な物を買って所有欲を満たしたい

 などなど、誰にでもあるような欲求ですよね。これって病気なんでしょうか? 

 

 スマホ依存の診断方法や定義は専門分野でも統一見解はなく、研究によりけりとなっています。ネットを調べていても、スマホ依存治療やスマホ依存診断チェックなどエビデンスに乏しい記事が散見されました。スマホ依存もネット依存/ゲーム依存としてひと括りにして扱っていたり、有名な大学病院やクリニックであってもその解釈は様々です。どれも決して間違ってはいませんが、研究不足である現時点ではこれが正解!という定義もないので自分で“スマホ障害”を判断する必要があります

 

 現実問題として、スマホの使用時間が長くなるにつれて日常生活および健康に影響が出ていると答える人は多くなってきています。精神科の病院では、実態はどうであれ、スマホの依存で入院する人も出てきていることを踏まえると、スマホ依存を治療対象として捉えることは不自然ではないと私は考えています

 

 

第2回はこちら → スマホ依存 (Smartphone addiction)について考える_(2) - RIDC_JPのブログ 

 |- スマホ依存と発達障害の関係性について

 |-スマホがもたらす生活への悪影響について

 |- 依存かどうか?判断基準について

 |- まとめ

 

 

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 発達特性研究所 (RIDC: Research Institute of Developmental Characteristics)

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*1:これは移動通信方式の進化によるものが大きい。移動通信トラヒックが2012年では230万だったのが、2017年には1億219万となっており、その差はおよそ44倍。膨大なデータをより高速でやり取りできる技術が、パソコンからの主役交代を支えた。

*2:他のサービスとの連携も多くなってきていて、マーケティングやシェアリングサービスなどの利用例も増えてきている

*3:Kwon et al., 2013

*4:Kwon et al., 2013;Linet al., 2014;戸田・西尾・竹下,2015

*5:小林他,2001;鄭,2008

*6:Lin et al., 2014

*7:松島他, 2017

*8:報酬や動機付け、記憶などに関わる脳の機能不全を生物学的に示すものを「嗜癖」と呼んでいるが、一般的には依存症と呼ぶことが多いため、この記事では依存症という言葉を使用している

*9:精神疾患は全てDSM-5という診断マニュアルで医師が診断を行い、ICD-10という疾病定義に基づいて行政的な手続きを行う。そこでは、インターネット依存もスマホ依存も精神疾患には位置づけられていない。唯一、“ゲーム障害”という病名が2022年からICD-11で疾病扱いとなる。

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