代表です。
コロナウイルス禍で社会が大変動いていますが、皆様お元気でしょうか。
色々な情報が飛び交っていますが、現状日本で死亡者数が抑えられているのはとても心強いこと、と感じます。いわゆる3密を避けつつ、手洗いなどしっかりと自らの行動を律したいところです。
ハイコンテクストな文化とローコンテクストな文化
さて、今日は、「ハイコンとローコン」についての話です。
ハイは高い、ローは低い、ですが、コンは、「コンテクスト」の略です。
コミュニケーションの話題になります。
異文化コミュニケーションの本からご紹介したい話題です。
本書に出てきたのが、「ハイコンテクスト」な文化と「ローコンテクスト」な文化でのコミュニケーションの大きな相違です。 ちなみに私たち日本人は極めてハイコンテクストな文化の中で暮らしています。一方で、アメリカやオランダは代表的なローコンテクスト文化です。
まずはこの図を見てください。
ハイコンテクストな国とローコンテクストな国として挙げられている図を少し改変してお見せしました。
どうでしょう、なんとなくわかるかな。
ハイコンクストの文化では、共通点や暗黙の了解があることを無意識に前提としていることが良いコミュニケーションなのです。そういう文化では、いわゆる「行間を読む」ことが必要とされていて、何か提案を断ったりもしくは受け入れるときにもはっきりとした物言いをしないことがよくあります。
また、同音異義語が多く、実際日本語は英語よりも遥かに多いので、文脈によって同じ発音でも指しているものが違うのです。インドのヒンディー語も日本語のようにハイコンテクストな言語だし、フランス語はやはり英語よりもハイコンテクストで、英語の七倍の単語数があるらしいです。同じ意味を伝えるのに様々な単語を文脈に応じて使い分けるのですね。
例えば日本語では自分を指す人称代名詞つまり英語の「I」に相当する単語がやたらとあります。僕、あたし、わたし、わたくし、自分、俺、拙者、それがし、まろ…さらに漢字かカタカナかひらがなで書かれればニュアンスも違う。「自分」など関西では相手のことを指したりもしますよね。
一方で、ローコンテクストの文化では、良いコミュニケーションは極めて明示的です。厳密でシンプルで、額面通りに受け取れることが大事であり、大切なことは繰り返しも辞しません。
図を見てわかるように一般にアジア圏(中東も)がハイコンテクスト文化であり、アメリカやオランダ、イギリスなどアングロサクソン系の国々がローコンテクスト文化であり、ラテン系のフランスやスペイン、ブラジルなどはその中間にあたるようです。
とはいえ同じローコンテクスト文化の中でも相対的な違いは大きく、最もローコンテクスト側なオランダ人とハイコンテクスト文化に近いイギリス人では、同じ言葉でも受け取り方が相当違うことが紹介されてもいます。
例えば、イギリス人とオランダ人の受け止め方の違い。
イギリス人が「あぁ、ところで…」と言ったら
⇛ イギリス人:ここからが言いたい批判の核心
オランダ人:あんまり重要じゃないんだな
イギリス人が「独創的な観点だね」と言ったら
⇛イギリス人:君の意見は愚かだ
オランダ人:気に入ってくれた!
まぁちょっとジョーク的な紹介ですけれども、要するにイギリス人の物言いにはオランダ人より含意が多いってことでしょう。
何かに似ているなと思ったら、京都人のモノの言い方でした。褒めるふりして嫌味言うという…。
ほめられたら要注意!? 京都人の「ウラとオモテ」を楽しむ(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(4/5)
(もっとも私は実体験として皆無なんですが、気づいてないだけなんでしょうか)
ただし、なんですがじゃあローコンテクストの文化では例えば相手を批判するときに全てズケズケと物を言っているか、というと、実はアメリカでは直接的には言わず、婉曲的な言い回しを取ります。
・各国で相違するネガティブ・フィードバックの伝え方
著者いわく、グローバル・ビジネスにおけるマネジメントの中で特にケアが必要なものに、ネガティブ・フィードバックの方法論の違い、があります。
上司が部下に苦言を呈したり、小言を言う場面を想像してみてください。なかなか難しい状況ですよね。
ここで、例えばアメリカはローコンテクストな文化だから、ネガティブな内容もはっきり伝えるに違いない、と思っている方がいたら実は大きな誤解なのです。
人にネガティブなフィードバックをする時に取られる、サンドイッチ法ってのがありますよね。
始めに相手の長所を述べたり、苦労を労ったりする言葉を言って、それから相手の直して欲しい点、弱点や小言を述べ、その後また激励したり褒めて終わるというものです。
アメリカの上司は部下に対してそういう方法を取る傾向が顕著なようですが、どこでも上手くいくわけではありません。ネガティブなフィードバックをできるだけ直接的に伝えるオランダ人やフランス人にとっては、アメリカ人上司の意図していたのかわからない、(伝えたいのは苦言だったのに)褒められたのではないかとも取られてしまうようです。
相手を傷つけないために編み出された方法なのに、受け止め方が話し手の意図と全く逆になりかねないのです。異文化を背景に身に着けたコミュニケーションの相違、の難しさを感じますね。そんなわけでアメリカのようにローコンテクスト文化でもネガティブ・フィードバックには気を使われるわけですが、日本や中国はもちろん間接的に伝えられることが多いわけです。そのためにしっかり伝わっていないこともしばしば経験しますよね。
オランダやフランスではアメリカ人が驚くほどの率直さでネガティブな内容が部下に伝えられるようですが、だからといってその後仲がぎくしゃくするわけではないようです。業務内容への批判が人格攻撃でないという安心感があるのでしょう。羨ましいと思う反面、同じことをされたら耐えられない気がします...。
・発達特性への配慮としてローコンテクストなコミュニケーションを
さて、こんな話を読んでいて頭に浮かんだのは、よく言われる発達特性への配慮です。
配慮対象の発達特性がASDでもADHDでも、何か伝えたいときには、「曖昧さ」や「誤解」が生じる表現を廃して「具体的」で「明快」な表現を使って伝える必要があることが大事なポイントです。すなわち、ローコンテクスト的になりましょうということです。
日本語にありがちな、「あともう少しやってみて」とか、「ちょっと待ってね」みたいな表現ではなく、「あと3回終えたら次の作業に移ってください」とか「30分後に再度報告してください」のように。要はするべき量や必要な時間を明確にすると見通しがたって不安も少ないわけです。
ハイコンテクストな日本文化では、「少し」の量や「ちょっと」の時間の概念が何となく共有されている気がしてしまいますが、相手にそれを当然のように求めるのはある意味傲慢とも言えるのでしょう。ローコンテクスト的なコミュニケーションをしてみる気持ちを持つと良いのではないでしょうか。
考えてみるとそういったローコンテクストなコミュニケーションが絶対的に必要なのが理系界隈(医系も含みます)です。例えばいろんな実験のやり方(プロトコルと言います)の説明書は、極めてローコンテクストです。どの試薬をどのタイミングでどのくらいの量を入れて、入れた後どうするか(振るとかそのまま置くとか)が極めて詳細に書かれているものです。
教科書、参考書もそうですね。高名なアメリカの参考書を読むと、非常に繰り返しが多い。どの本でも非常に基礎から始まり、そして説明に「言葉」を尽くします。日本の参考書では、図をぱっと出して説明はあまりないことも多いのですが、向こうの参考書はとにかく文章で表現される。ローコンテクストな文化を感じることが多いのです。そして、よく頭に入ってくる気もします。日本の参考書では、自分が果たして図から著者の意図したことを全て読み取っているか不安になることがあるのですが、そういうことが無いのです。全部言葉で伝えてもらえるから。
そう書いていたら先週木曜日にNewsweek誌にこんな記事も載りました。
ハイコンテクスト、ローコンテクストな文化への言及は最後に少しあるだけですが、言語の特徴的な面、すなわち日本語では表音・表意文字双方を使うことで、内容が記憶に残りやすく内容を伝えるのに短い量で済むことが知られています。そんなわけで、日本の各種解説本は欧米著者に比べて薄いのかもしれませんね。また、言語的特徴がハイコンテクスト/ローコンテクスト文化に及ぼす影響は今日ご紹介した本にも書かれています。
ただ、上記の各国におけるコミュニケーションの違いはあくまで相対的なものであり、かつ同じ国の中の人同士でも成り立ちます。つまり、日本社会は全体としてハイコンテクストながら、発達特性と関係なくローコンテクスト的にコミュニケーションを取る方もいるし、直接的なネガティブ・フィードバックを取る方もいるのには注意が必要です。
以前私の個人blogに
ASD(傾向)があって活躍している人は「外国に居るほうが楽」と語ること、結構多い。英語圏では敬語もなく、議論においても上司や教授など権威に対してもファーストネームで呼び合い、また声を上げること自体が評価されるために、英語圏では能力を発揮できる条件が1つ多いと言えそうな気がする。
と書いたことがあるのですが、英語圏がローコンテクスト文化なことがメリットの1つなんでしょうね。
コミュニケーション形態において他の各国と比べて際立った様々な特徴を持っている日本独特の生きづらさというのはあるのでしょう。もっと自覚的になったほうが良さそうですね。
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発達特性研究所 (RIDC: Research Institute of Developmental Characteristics)
本記事は株式会社ライデックによって作成されました。できるだけ、簡単でわかりやすい言葉で、英語を日本語に意訳していますが、データの解釈や内容表現に誤りがあれば、コメント欄にてご指摘ください。また、弊社HPやTwitterにてさまざまな発達特性情報を発信していますので、興味のある方はそちらもチェックしてみてください。
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