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認知機能トレーニングプログラム(CTP : Cognitive Training Program)について

ライデックでは少し変わったプログラムとして、認知機能トレーニングプログラムを提供しています。担当の沼田です。

 

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内容についてよく質問を受けますのでご紹介したいと思います。

まず、認知機能、と名前がつくように、人の認知機能にアプローチするプログラムです。

認知は、「外界にある対象を知覚した上で、それが何であるかを判断したり解釈したりする過程」のことを言い、それが注意集中・記憶・判断・思考・言語のような形で様々な機能を発揮すること全体の総称が認知機能です。

 この認知機能は、認知症のみならず様々な精神疾患や精神状態において機能低下したり、もしくは変化した形で働くことが知られています。そして、認知機能にアプローチする治療法やプログラムは様々あります。統合失調症、強迫症、老年期、拒食症、そして発達障害者の発達特性に対して、さらにはビジネスや教育の現場でも用いられています。呼び方も、認知機能改善療法、脳リハビリテーション、脳トレーニング等様々です。

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我々のプログラムは、英ロンドン大学のKate Tchanturia博士考案の認知機能改善療法をもとに、改変したもので、千葉大学附属病院認知行動療法センターでも採用されています。主に、摂食障害(特に拒食症)と、自閉症スペクトラムに対してその適応を研究、臨床応用しています。

 

例えば、拒食症の方は、 ダイエット、断食、過剰な運動など、体重増加を妨げる行動を繰り返し行うことがあります。それに加え、体重をコ ントロールすることへのこだわりがみられます。また、自閉症スペクトラムの方には、特定の繰り返される行動パターンや習慣へのこだわりがみられることも多いですね。

このようなパターン化した行動の背景に関わっている認知機能として、セットシフティング(認知の柔軟性)と、セントラルコヒーレンス(全体統合性)という概念が注目されています。

 

セットシフティングとセントラルコヒーレンス

 

セットシフティング(認知の柔軟性)は、その場に応じて柔軟に対応を変える能力で、弱いと一般にいう「白黒思考」になりがちです。

セントラルコヒーレンス(全体統合性)は、「細部」ではなく「全体」を優先して物(事)を見る能力をさします。脆弱だと、「木を見て森を見ず」の傾向になりがちです。

具体的には・・・

 

拒食症のひとでは、しばしば、厳しいダイエットを一度始めると、痩せたことへの達成感やコントロール感にのめりこんでしまいます。普通の食事へ戻すための切り替えができずに、ずっと拒食を続けるような点や、体重を ○○kg以下に落とす目標(価値観)にこだわり、 他の目標(価値観)に変更できない点は、セットシフティングの問題と理解できます。

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また,栄養のバランスがとれていて、見た目も香りも味も良い食事の全体を見ることなく、個々の食品のカロリーや脂肪の含有量といった細部のみを見る点は、セントラルコヒーレンスの問題と理解できます。

 

自閉症スペクトラムのひとに特徴的な、何かをするときの方法や手順にこだわり、いつも同じであることで安心し、それらを変えることが苦手と感じるのは、セットシフティングの問題であると理解できます。また、一つのことに集中しすぎて周りが見えない、スケジュール管理がうまくできないなどはセントラルコヒーレンスの問題と理解できます。 

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このように、行動上の困りごとは第三者にも明らかに見てとれますが、拒食症のひとは、体重が増えることに対する強い不安から、体重や体型の問題に向き合うこと(例えば、健康的で規則正しい食事を摂ることなど)に強い抵抗を示します。また、自閉症スペクトラムのひとがしばしば抱えるコミュニケーション(例えば、世間話をどうしたらいいのかわからない等)の悩みは、もともと正解と言える確定したルールなどが存在しない対人交流場面では、解決策が見出しにくく、またゴールが見えにくいため、取り組みづらいという問題があります。

 

セッションで思考のくせに気づく

CTPは、1セッション50-60分で6回のプログラムです。1回のセッションで1〜2個の課題を行います。課題はゲーム感覚でできる簡単なものになっていて、答えに正解不正解はなく、どのような方略で課題をこなしたのかという振り返りを重視します。そこで自分の思考プロセス(思考のくせ)に気づき、別の考え方や方略はないかを治療者とともに検討します。新たに発見した別の考え方や方略を取り入れ、日常生活で繰り返し実践していきます。それは、脳には可塑性(変化する性質)があり、脳が神経レベル、認知レベルいずれにおいても環境の変化に応じて、自らを修復する能力を持っていることを前提としています。つまり、脳は使われることで形作られ、特定の技法を実践することで関連領域が活性化され、さらに使用される領域が拡大します。これにより、認知機能の改善が期待できます。

 

CTPは、このように、行動上の問題(困りごと)に直接焦点を当てずに、認知機能に焦点を当てた簡単な課題を行うため、受ける人の負担が少ないことも特徴です。

例えば、「幾何学図形」というセッションがあります。図に示したように、一方が見て把握している幾何学図形を、それを見ていない人に伝えて書いてもらうのです。

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細部だけ見てしまうと、中々全体像が相手に伝わらず、書いてもらう図形が大きくずれてしまいます。そんな課題を通じて、思考や伝え方の癖を知ってもらい、どうしたら自分の考えていることを相手に伝えることができるか…みたいなことしてもらうと、気づき、が多いですよ。

 

セッションは初回評価と6セッション、そしてフォローアップ

当社のセッションでは基本的には、初回にセットシフティングとセントラルコヒーレンスを評価して目標を定める評価セッションを行い、やる気を持てたら引き続いて6回(原則毎週)のプログラムを行います。終わった後も可能なら数ヶ月おきに来ていただき、セッションを通じて学んだこと、身につけたことを日常生活に活かし続けていけているか、相談できるようにしています。

 現在CTPは、拒食症や自閉症スペクトラムの患者さんのみでなく、強迫症、うつ病などの患者さんにも行われています。疾患を持っている方でなくても、普段から「急な予定変更があると慌ててしまう。」「失敗した時に、もっとこうしたらよかったんじゃないかと、ずっと考えてしまう。」「2つのことを同時に行うのが苦手。」などと感じている方に適しています。

ご興味を抱いた方は是非考えてみて下さい。

 

最後に研究紹介

2013年にスタンフォード大学のロック博士らが外来通院中の拒食症の患者さんを対象に認知機能改善療法の無作為割付試験を行った際の結果です。(Lock J et al, Int J Eat Disord, 2013)

 この研究では、46名の拒食症の患者さんを2つのグループにランダムに分け、23名は認知機能改善療法8セッション+認知行動療法16セッション行うグループ、23名は認知行動療法のみを24セッション行うグループとしました。どちらのグループも治療終了時には、治療開始前と比べてセットシフティング(認知の柔軟性)とセントラルコヒーレンス(全体統合性)の改善が見られていますが、統計学的有意差はありませんでした。興味深いのは、8セッション終えた時点で、2つの認知機能における認知機能改善療法(赤線)の効果は、認知行動療法に比べて有意に高いという結果でした[グループ間の差は、(a)p<0.006;(b)p<0.013]。

 

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また、治療終了時は、認知機能改善療法をおこなったグループのみで、食事や体型や体重に対するこだわりが有意に軽減していました。さらに、セッション8回を終えた時点での患者さんの治療中断率は、認知機能改善療法(実線)で13%、認知行動療法(点線)で33%でした。これは、認知機能改善療法が患者さんにとってより負担の少ない治療法と言えるかもしれません。

 

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 発達特性研究所 (RIDC: Research Institute of Developmental Characteristics)

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