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【NETFLIX】『ラブ・オン・スペクトラム〜自閉症だけど恋したい!〜』の魅力

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目次

 

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【自閉症だけど恋したい!ラブ・オン・スペクトラムの魅力

こんにちは!株式会社ライデック 学術広報のサハラです。2020年も終わりが近づいてきて、あっという間の1年に驚きが隠せません。新型コロナウィルスが見つかって1年が過ぎようとしていますが、私は新しい生活様式にはまだ息苦しさを感じています。

 

今回はちょっと特殊な内容になります。最近、自閉症の若者が恋愛に挑戦する海外ドキュメンタリー番組を見たんですが、とても興味深い内容だったのでブログ記事にすることにしました。ライデックの他のスタッフも視聴したので、そのレビューも交えながら”自閉症と恋愛”について考えていきたいと思います。

 

ラブ・オン・スペクトラム〜自閉症だけど恋したい!〜とは

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このタイトルは、オーストラリアのドキュメンタリーTV番組”Love on the spectrum”の邦訳から取ってきました。ラブ・オン・スペクトラムは、20〜30代のASDの若者のデートを特集した”恋愛リアリティ番組”です。NETFLIXで5話まで視聴することができます(2020年11月18日現在)。

 

この番組では、独身のASDの若者らがそれぞれの希望を胸に、恋愛の世界へ一歩踏み出す瞬間をリアルに捉えています。本人や家族のインタビューから始まり、初対面の相手との1対1のデートを主体に話は進んでいきます。恋愛は彼らにとって全くの未知の世界で、そこから生じる本人の期待や不安、新しいことに挑戦する勇気が見事に映し出されています。

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海外の映画評価サイトを見ても、ユーザーレビューは好評なようです(10点満点中8.5点)。特に、45歳以上の女性の評価が最も高く(8.9点)、思春期以上の子をもつ母親世代には響くものが多いのだろうと予想できます。

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IMDb User Ratingより


上記サイトにある“Heartwarming (心温まる)”というレビューの通り、視聴しながら自然と笑みがこぼれてしまうような番組だと私も感じました。出演者の誰もが恋愛に真剣なだけに、デート前の入念な準備からのデート中のアクシデントなど、見ていてワクワク・ドキドキさせられます。恋愛について悩む彼らが前向きになれるように支える家族の姿には心動かされるものがあります。

 

Netflixは月額料金¥800円〜で、スマホやタブレットでも視聴できるようなので、試しに登録して見てみてはいかがでしょうか。その辺のB級映画よりは楽しめます。

help.netflix.com

 

番組の魅力① 「ハードモードな恋愛への挑戦」

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Love on the Spectrum (Official Trailer)より

このリアリティ番組では、ASD特性を持つ若者にとっての”恋愛”がいかに難しいかを思い知らされます。番組が仲介役となって、基本的にASD特性のある者同士のブラインドデートが用意されます。1度のデートで合わないと連絡先さえ交換しないケースもあれば、2〜3回デートを重ねて結局恋愛感情が芽生えないケースもありました。ネタバレになりますが、番組が追いかけた男女11名の恋愛は一つも上手くいっていません。

 

『恋愛は誰にとっても難しいもの。特に、自閉症スペクトラムの若者にとっては、予測不能な展開が多いデートなど恋のすべてが複雑怪奇で、そのハードルは限りなく高い。』

 

番組の紹介文にこう書かれています。私たちは、異性への言葉の掛け方や相手の感情の読み取り方を”長い人付き合いの経験”から学んでいます。それでも恋愛が上手くいかないことはよくあることです。ASD特性を持ち、コミュニケーションに困難さを抱え、人付き合いの経験が浅かった彼らにとって恋愛はハードモードなのは当たり前です。この番組の素晴らしいところは、”ASD者がもつ特性が恋愛にチャレンジする上で高いハードルになっているとしてもそれを踏まえてどうチャレンジができるか”を考えさせられるところです

 

 

番組が撮影されたオーストラリアは、日本に比べて直球の言葉を相手にぶつけます。それでも、「今日は予定が合わなくなったので会えません」と遠回しに断る相手の意図や「割り勘にしようか」と言った時の相手の微妙な表情の変化に気づくことはできませんでした。ストレートな言葉を使わない日本では、「空気を読む」「相手の気持ちを汲む」もっと人情の機微に触れるスキルが求められるので、日本での恋愛は”超”ハードモードなのではないでしょうか。

 ちなみに日本のコミュニケーションの特徴については代表のblogも振り返ってみてもいいかもしれません。オーストラリアと日本はコミュニケーションの質において対極的です。

www.tsudanuma-ridc.com

 

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Love on the Spectrum (Official Trailer)より

デートシーンを見ていると、「あぁやっぱり…」となる場面がたくさんあります。「ここでそんなこと言っちゃダメだよ〜」と、ある意味で予想できる結果が起こります。番組では、何かしら特性を抱える者同士のデートだったのでASD特性に対する理解が互いにありました。でも、実際の社会ではそう上手くはいかないことも多いですよね。

 

もし、自分がデートした相手が彼らのような人だったら…。「ASD特性込み」で面白い人だと感じ、友人として付き合っていくのに楽しそうだとは思えます。でも、恋愛関係となると「ASD特性抜き」で考えてしまうかと。厳しい現実としては、特性を理解して会話が行き詰まった相手に配慮ができることと、コミュニケーションが上手くいかない相手を好きになるかはイコールにはなりません。

 

ASDの診断や特性の有無に関わらず、会話していて楽しくないならデートは失敗です。そういった意味で、ASD特性は一般的なデート(相手との会話を楽しむ時間)には不向きなことも多いのです。それでも、特性の持つこだわりが相手にも好感を呼ぶシーンもあります。また、現実の高いハードルにぶつかっている場面も見ているともどかしさや切なさと同時に「がんばれー!」と応援したくなる気持ちになります。何より出演者たちがピュアな憧れや理想を語り、真剣に恋愛に挑戦する姿は心動かされるものがあります 

  

 

番組の魅力② 「恋愛が初めてで特別」

番組で出演していた若者のほとんどは、インタビューにて「恋愛経験はない」と答えていました。恋愛感情を抱いたことが一度もない人もいれば、片思いで恋心が芽生えたことのある人もいましたが、皆が初めてのデートです。そんな”初デートへのドキドキ感・ハラハラ感”が視聴者にも伝わってきます。

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Love on the Spectrum (Official Trailer)より

 

また、この番組の出演者らは、恋人が欲しいと心から思っているのも魅力の一つです。「自分の理想とする恋人像」を語る男性も多く、こだわりの恋愛観には圧倒されるものがあります(笑)。演者らの語る、パートナーを見つけたい、こういった恋愛をしたいという理想や憧れはとてもピュアで印象的です

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Love on the Spectrum (Official Trailer)より

このような番組に応募するような人なのだから、当然恋愛に興味があるのは当たり前かもしれません。全てのASDの若者が「恋愛したい」とは言わないでしょう。でも、できるものならしたいと考えるのが自然ではないでしょうか。

 

ベルリン(ドイツ)の研究チームが、高機能ASDの成人229人(男性40%、平均年齢35歳)を対象に恋愛への関心について調査した結果、恋愛関係になりたいと思っていない者はたった7%しかいませんでした*1この調査結果はまさにASD者の大部分が恋愛への興味を持っていることを示しています

 

「ASDの90%の人は恋愛関係が築けないの」は誤り

 

出演者の一人がネットで見た統計上の数字を語っていました。実際はどうなんでしょうか。上記のベルリンの研究では、過半数以上が恋愛関係の経験ありと答えた(73%)と報告しています。日本でも、昭和大学附属烏山病院の調査によると、成人発達外来に通院したASD者の10〜16%が既婚だったと報告されています。こういった研究は地域差があるため一概には結論づけられませんが、ASDの大部分の人が恋愛関係を築けないという認識は誤りでしょう

 

 

 

番組の魅力③ 「デートに失敗しても大丈夫」

この番組の最大の魅力は、ASDの当事者を取り囲む支援者らが生み出す安心感です。デートに失敗した時に頼れる周囲のサポーターがいました。出演者の心情をよく理解してくれていて、デートのことを話せる相手が必ず存在しているのです。この番組では、特に家族と番組スタッフがその役割を担っていました。

 

また、デートの前後でアドバイスをくれるジョディ・ロジャース(Jodi Rodgers)という方がよく出てきます。彼女はASDなどの特性をもつ人の”恋愛関係を支援する専門家”として紹介されます。

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彼女はいわゆるカウンセラーという立場なんですが、特別支援教育などでASD者の性教育やコミュニケーション教育に長年携わってきていて、まさに恋愛関係の専門家と言える人物です。直接家に訪問して、デートのやりとりをリビングで一緒に考えるそのやり方はかなり特殊に見えます

 

調べてみると、性科学者としてカウンセリングや教育、コンサルティングを行う”birds&bees”という団体を立ち上げて活動しているようです。障害をもつ当事者や家族に対して行われる性教育やデートに特化したカウンセリング事業は興味深いですね。日本はただでさえ性教育が遅れている国なので、かなり進んでいる印象を受けます。


 

「恋愛とはこういうものだ」

 

番組を見ていて私が不安に思ったのは、「恋」は”必ず特別で、輝いていて、素晴らしいものでなければならない”という強いこだわりを持っている出演者が多いということです。ASD特性のある側面は、恋愛への興味や性的関心があるものの、不適切(不器用)な行動を取ってしまうことにつながったり、それがいじめ・拒絶・社会的孤立といったネガティブな人間関係に繋がり得ることが報告されています(オーストラリアの研究)。

 

これらは、少しずつ日本でも問題として取り上げられるようになってきています。

 

ケースで学ぶ 自閉症スペクトラム障害と性ガイダンス

ケースで学ぶ 自閉症スペクトラム障害と性ガイダンス

  • 作者:田宮 聡
  • 発売日: 2019/02/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

  

対人関係の苦手さから同年代の思想や現実の恋愛事情に触れることが少ない場合、映画やドラマの中の「空想上の恋愛」を追い求めてしまうことがあるのもうなずけます。番組では「現実の恋愛」に関する知識を学ぶため、講習会が催されていました。そこでは、目の前のデートのデモンストレーションを見て何がダメかを問いかける場面があります。

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「一方的な質問が多すぎる!」

 

講習に参加したASDの若者たちは「良くない行動」に気付き、注意しなければならない部分を学んでいました。両親や兄弟が恋愛のアドバイスをするシーンも映っていましたね(もちろん、両親に口出しされた恋愛観なんて、若者なら素直に聞き入れませんが笑)。デートや恋愛とまでは言わないまでも、こうした”人付き合いの教育”は特にASD者には必要だと感じます

 

初めての異性とのデート。これまでに異性と交友関係を多く築いてきた訳でもありませんから、間違った行動を取るのがある意味”当たり前”です。誰しも初めての恋愛では失敗を重ね、恋愛の経験を培っていく過程があるのだと思います。両親や専門家が、正しい行動を取るように指導するのではなく、失敗を繰り返さないように(自分自身で学んで生きていけるように)支えていこうとする姿勢を取っていたのがとても素敵でした

 

 

 

番組を見た感想

私は初めてタイトルを見たとき、自閉症者を取り沙汰して、”作られた感動話”のように番組を仕上げているんじゃないかと懐疑的でしたが、実際に見てみると全くそんなことはありませんでした。恋愛に初めて挑戦し、失敗したり悩んだりする若者の姿がそこにはあります。

 

驚きなのは、どの出演者も赤裸々に両親や番組スタッフにデートの内情を話していたことです。「どうだった?」「お相手はとても知的で魅力的だった。デートも会話を楽しめたし、上手くいったよ」デート終わりに迎えにきた両親と自然にそんな会話ができる。

 

日本ではそうはいかないでしょう。そんなに他人との距離感が近くありません。初デートで自分の特性や障害になっていることをストレートに話せるでしょうか。欧米との文化の違いは大きいです。これは発達障害者の自伝なんかでよく語られることですが、自分のことをよりオープンにしやすい欧米諸国ではASD者は日本よりも住み心地が良いと感じるそうです。

 

欧米とは違うやり方をするにしろ、初対面の人とのやりとりや異性の気持ちについて学ぶ場があれば良いなと思います。周囲のやりとりを見様見真似で”対人スキル”を習得することが難しい場合、「なぜこの言葉が不適切か」「この行動が表す相手の気持ちは何か」はっきりと言葉で学習できる機会がとても役立ちます。そこに、家族や友人、専門家などの周囲のサポートは不可欠でしょう。

 

ライデックでは、他のスタッフもこの番組を見ていて、次のような感想を寄せてくれました。

全5話で1話40分程でとても見やすい番組でした。英語もはっきりゆっくり話される方が多いのでとても聞き取りやすかったです。(もちろん日本語字幕があります。)恋愛リアリティーショーとドキュメンタリーのどちらも含んでいます。「あの人はうまくいくかな」「このカップル幸せそう」と視聴者として楽しめる部分と、自立していくことの難しさやご両親が涙ぐまれるシーンもあり、一筋縄ではいかない日常も感じました。会話を展開させていくことが困難な場面が多かったのと結論を出すのが早かったので、時間をかけて関係を築いていける出会いがあればと願ってしまいました。

 

正直に言って、出演者たちの恋愛がすぐに成就するとは思えません。それでも、「恋したい!」と思う素直な気持ちに向き合い、そこに踏み出す第一歩をサポートすることはとても役立つと思います。番組で彼らのチャレンジ精神を目にすれば、きっと多くの人が沢山の勇気をもらえるのではないでしょうか。

 

11名のASDの出演者たちのその後をインタビューした動画があります。彼らは番組での特別なデートを振り返り、これからの夢について話をしてくれます。

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番組でのデートは失敗に終わったものの、その体験をみな好意的に受け取っていたことが伝わってきます。特にすごいと思うのは、彼らはコミュニケーションが不得手だということを自分で知っていて、恋愛が難しいことを理解していることです。恋愛は無理だと他人から言われようと、それは彼らには関係のないことなんでしょう。

 

   マイケル "I have no intention giving up(あきらめるつもりはないよ)"

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Love on the Spectrum (Where Are They Now?)より

出演者の一人であるマイケルは決してあきらめません。彼は恋人どころか将来の妻や理想の夫婦像をイメージして話をしています。結婚生活への期待と重圧がすごいので、理想の恋人選びに苦労しそうです(笑)。それでも努力し、スキルを学び、これからも出会い(愛)を探し求める姿には応援せずにはいられません。

 

  

 

 

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*1:Strunz S et al., J Clin Psychol, 2017 Jan;73(1):113-125. doi:10.1002/jclp.22319.

自分を知り、自分をかえていく