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ADHDに関する10の神話(誤解)_前編

代表です。

世の中的にはいまだに新型コロナ、COVID-19の感染に関する情報ばかりが目立ちますね。そんな中ワクチンのイギリスとアメリカでの接種が開始されました。理論的には最強にも思えるmRNAワクチンという種類なので期待しています。副反応が可能な限り少なく抑えられ、結果として世界の景色が良い方向にまた変わりますように…


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さて、今度大学院でADHDについての講義をします。お題は「ADHD児に対する学校支援」。クラス運営をする際にADHDの子をどのように支援すると良いのか、という視点から講義をさせてもらいます。すぐに役立つ、という意味ではADHD特性に対しての環境調整であったり、心理的側面からどのような配慮が良いのか話す、ということになりそうです。

ただ、私としては、特性面がどういう理由で出てきてしまうのだろう、という特性の背景にある脳内基盤に関して知ってもらいたい、という気持ちが強かったりします。

その上で学校の先生方には上手い配慮の仕方を工夫、開発してもらえると嬉しいなと。

どんな配慮を、という観点からまとめて知りたい方は札幌市の「虎の巻」はどうでしょうか。とてもわかりやすくて、使えます。
www.city.sapporo.jp



ADHDと実行機能

アメリカのADHD研究者/心理学者にThomas E Brownという方がいます。著書ではADHDが実行機能障害(遂行機能障害)の観点から語られており参考になります。

実行機能障害とはなんぞや、というと、定義はある程度幅はあるものの、
「目的を持った一連の活動を有効に行うのに必要な機能」
となります。

その観点からは例えばADHD特性として、やろうと思ってもなかなか始められないという「行動の開始(起始)困難」や、やり始めたことが途中の刺激でし続けることができない「行動の維持困難」などがありますが、それらが実行機能障害です。

こういった実行機能の問題を考えずにADHDの支援はし難いというのがBrown博士の主張です。私も、ADHDの障害を説明する際に用いられる「不注意・衝動性・多動」のセットよりも、実行機能障害としてADHDの諸症状を捉えるほうがわかりやすく感じます。

amzn.to


ADHDに対する10の神話となぜそれが間違っているのか
そのBrown博士によるADHDの解説、「ADHDに関する10の神話となぜそれが間違っているのか?」を今日はご紹介します。下記のうち【】内は私のコメントです。

Ten Myths About ADHD and Why They are Wrong - CHADD


1.ADHDがある人(以下ADHD者)は、どんなときにも集中して課題をこなし続けることが出来ない。

⇛ 誤解である。臨床データはADHDの実行機能が変動しうることを示している。内容によっては、ADHDは集中することに何の困難も覚えない。ADHDのパフォーマンスは報酬の程度や、課題の性質、それに知的能力や心理面に大きく左右される。【ここはとても大事で、だからこそADHD特性があっても偉業を達成できるのです。例えば能力の低さを指摘されるワーキングメモリも、内容であったり状況によっては非常に高く保たれます。WAISやWISCなど知能テスト時もワーキングメモリ課題の中で大きなスコア差があったりします。】


2.ADHD者が課題を本当に集中して効率的にこなそうと思ったらそれは出来る。単なる「やる気」の問題なのだ。

⇛ 誤解である。ADHD者は、興味ある、もしくはやらないと大変なことになりうる特定の活動や課題をやすやすとこなしてしまうことがある。そういう姿を見ると、周囲は彼らが別の重要な場面でも、「やる気」さえ見せれば能力を発揮するのは簡単に思えてしまう。こういった、能力は意識下にコントロールされているという見方に新しいADHDモデルは反対する。実行機能の制御はもっと意識下に「自律的に」制御される。【やる気を出せと言われれば出来るもんじゃないってことです。場面場面で持てる能力の発揮が異なってしまうし、なんでそうかと言われてもわからない。尚、この意識下にというのを、著者原文は「勃起不全と同じ」とサラッと書いてます。そちらも能力が保持されていても女性を前にした状況下ではダメとか、条件次第で能力があるのに自分でそれをコントロールできないのは確かですね。】


3.高いIQ(知能指数)があればADHDの実行機能障害など持ち得ない。

⇛ 誤解。実はIQとして計測される知性は、ADHDの実行機能の問題と殆ど関連を持たない。極めて高いIQを持つ子供でさえADHD特性を持った場合には日常生活の様々な場面で高い認知能力を効果的に発揮することが出来ない。高いIQのせいでADHDの正しい診断と対応が遅れてしまうことが頻繁にある。【極めて高いIQの人にとっては知能検査レベルなんて軽々と凌駕できる人がいます。IQ単独では日常生活のハンデを表し切らないわけです。実際IQ130超えでも苦しんでいる子どもたち、大人はいますし、IQ120で認知症の人だっているのです。】

IQに関しては以前私の書いた記事もどうぞ参照してください。
www.tsudanuma-ridc.com



4.ADHDの実行機能障害は通常10代後期か20代前半には姿を消す。

⇛ 確かに思春期にかけて次第にADHD関連の障害が姿を消してゆく一部のADHD児はおり、そういった子にとってADHDは成長の遅さを示す特徴にすぎない。しかし大抵の場合、多動や衝動性は成長とともに姿を消していくが、広範な不注意症状は持続し悪化することさえある。中学、高校、そして大学前半は、それまでは興味や能力の問題で避けていれば良かった様々な活動に直面する最も厄介な期間である。幸運なADHD者は弱みを解決して仕事と良き人生を手に入れるが、そうはなれない場合も見られる。【ADHD特性が目立たなくなる人もいれば、後々まで障害としてハンデを抱える人もいるということです。思春期は自分の困った特性と直面化する時期でもあり、特にケアが必要です。】

関連して、日本でも小中学生の先生方へのアンケートによればこんな観察結果が報告されてはいます。


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5.最近の研究により、彼らの実行機能障害が主に大脳前頭皮質*1にその責任があることが確実となった。

⇛ 実行機能には脳の様々な部位が関わり、決して前頭皮質の関与だけではない。ADHD脳が示す、特定脳部位の成熟、皮質の厚さ、頭頂葉・小脳・大脳基底核の特性、そして神経線維路は個人差が大きく、機能的な結びつきが非常に多様なパターンを示す。【同じADHDと言っても人によって発達する脳部位、成長の早さ、脳部位同士の連絡は違います。ADHDの方それぞれに別個の特性がありますが、それは個々人別々な脳発達を遂げていることにも依ります。ADHDだからこう、といった画一的な対策はできないということです。】

ADHDの脳発達については弊社サハラのレビューもどうぞ。

www.tsudanuma-ridc.com



6.ADHDの実行機能に感情や動機づけは関係ない。

⇛ 初期のADHD診断基準は感情や動機づけの問題に関心を払わなかったが、最近の研究ではその重要性が強調されている。ADHDの感情制御能力にのみ焦点があたることも多いが、動機づけ(やる気)につながる感情の慢性的な欠陥が非常に重要であることもわかってきた。それは報酬系に関わるドパミン神経*2の活動に異常がある。その結果、やる気を出したり、維持することが難しい。【やったことに対する達成感、喜びが薄いため、望ましい行動が定着しないのは適切なドパミンの分泌が欠けているからといえます。報酬系は行動の開始・維持、そして学習に極めて大きな要素でもあります。】

報酬系に関しては私の以前の記事も参照してください。

www.tsudanuma-ridc.com


以上、今日は前編でした。
今年は私の記事更新は終わりになります。


代表として、皆様に今年1年お世話になりましたお礼を申し上げます。新型コロナウイルス禍はまだ続いていますが、ワクチンという光明が指し、もうしばらくの辛抱で生活が良い方向に変わるはずと考えたいです。

来年もどうぞよろしくお願いします。

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 発達特性研究所 (RIDC: Research Institute of Developmental Characteristics)

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*1:大脳の前方部分、前頭葉は人間の知性発揮において大きな役割を果たします。特に感情を抑えたり、その場にふさわしい行動をとったり、場面場面で最適な選択をするのに必要です。アルコールはここの機能を弱まらせるので、抑制が欠如して泣き上戸になったり、セクハラ親父に変貌するわけです。

*2:ドパミンは脳内の神経伝達物質の1つ。精神面では好奇心や新しもの好きといった性質、依存性に関わります。行動面では足りなくなるとパーキンソン症状や意欲低下を引き起こすのです。

自分を知り、自分をかえていく