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新しい片頭痛薬について

皆さん、こんにちは。
代表です。

いよいよ新型コロナワクチンの接種が始まっていますね。
私の身近では千葉大学附属病院関係者で始まっていますが、私自身はまだ先になりそうです。
新型コロナウイルス感染症に対する現時点の最も大事な対策が標準的な予防行為に加えて、ワクチンと言えるはずですので、接種スピードが上がることを期待しています。
ちなみに日本におけるワクチンの接種状況は以下のサイトを参考にどうぞ。

vdata.nikkei.com


さてさて、以前ADHDの方に多いことが知られている片頭痛*1に関する記事を書いていますが、今日はこの4月から登場の片頭痛の注射薬に関する話題です。


新薬待たれる片頭痛


さて、私は何度か表明したことありますが、片頭痛持ちです。
発症は恐らく小学校2年生、診断されたのは医学部4年生です。当時はまだ片頭痛が今ほど知られてはいず、人に頭痛と言っても理解がなかったのを憶えています。また今のように発作時の特効薬も無く、一旦頭痛の発作があるとただひたすら辛い状態が続くのでした。転機はトリプタン系と呼ばれる薬が登場した2001年。ようやく「ちゃんと効く」発作時の薬に救われる思いでした。


しかし、大変素晴らしいトリプタン系の薬にもやはり欠点はあります。
それは、例えば副作用は心血管系への作用を思わせる症状があり、虚血性心疾患の既往があったりすると使用には相当慎重にならざるを得ません。そもそも片頭痛は血管拡張が痛みの原因であると考えられており、トリプタン系の薬は血管を収縮させる作用があるために心配する必要があります。


私も最初に発売されたスマトリプタン(商品名:イミグラン、グラクソ・スミスクライン社)を使うと、頭痛は良くなっても虚血性心疾患症状を思わせる肩痛が非常に強く断念して他のトリプタン系薬を使っています。ただし、スマトリプタンは製剤の種類も多く、経口だけでなく点鼻薬や注射薬もあるとてもスグレモノではあることをお伝えしておきます。実際スマトリプタンで救われる方も数多いです。


さてさてそんな辛い片頭痛は予防できれば一番いいのです。
残念ながらトリプタン系は発作時治療薬ですから予防の効果はありません。その点は他の鎮痛薬や抗不安・催眠作用のあるベンゾジアゼピン系の薬と同様です。

neurophys11.hatenablog.com


実は予防薬は既に保健収載されていて、以前上記個人ブログでも書きました。
他の疾患でもおなじみの薬が使われます。
特に推奨される薬剤には、プロプラノロール(商品名:インデラル)、バルプロ酸ナトリウム(デパケン、セレニカ)、アミトリプチリン(トリプタノール)などがあり、実際効く人にはちゃんと効きます。

そんなに多いわけではないですが、私も外来でバルプロ酸が少量で(100-200mgくらい)とても良く効いた方を経験しています。
自分には効かず残念でしたが...


いよいよ登場する片頭痛の注射予防薬


さて、この4月からついに新しい機序(メカニズム)による片頭痛予防の薬が登場します。
なんと注射薬です。皮下注射をします。今新型コロナで話題ですが、新型コロナワクチン以外のワクチンと同様に皮下注薬なわけです。


名前はガルカネズマブ、という舌を噛みそうな化学物質の名前がついており、商品名は「エムガルティ」というイーライリリー社開発の薬です。


~マブということで抗体医薬品であることがわかります。
分子標的薬と言われる一群の薬が特に癌で話題になった時期がありますが、これもその1つです。


抗体はそもそも免疫系が外来分子を攻撃するためにリンパ球が作り出すミサイルのようなものと紹介されることが多いのですが、特定の分子(抗体ならタンパク質)を標的に結合することでその分子の機能を阻害します。ちなみに話題になった抗がん剤オブシーボの一般名はニボルマブ。
で、新しい片頭痛予防薬ターゲットのキーワードはCGRP。CGRPです。



CGRPの血管拡張作用と片頭痛f:id:neurophys11:20180324225600j:plain:w300:right

CGRPって何?という話ですが、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene- related peptide)の略です。37個のアミノ酸からなるペプチドで、神経末端から作られ放出され、強力な血管拡張作用があります。

この血管拡張作用が片頭痛に大きな役割を演じていると考えられています。何らかの理由で、顔面の感覚支配をしている三叉神経が刺激を受けると神経末端からCGRPが放出され、血管拡張作用を経て片頭痛に至る…というストーリーです(図参照)。


このCGRPを受け取る受容体(=CGRP受容体)は脳内に広く分布しており、大脳皮質、線条体、扁桃核、海馬、小脳など脳内のいたるところですね。



〜マブ薬の予防効果


さてさて、エムガルティですが、これは直接CGRPに結合して、CGRPが本来結合するCGRP受容体に結合するのを阻止してしまうのです。それによりCGRPの血管拡張作用を阻害します。


図には現在販売が待たれているもう2つの抗体医薬品(エレヌマブとフレマネズマブ)の働き方と一緒に作用メカニズムを描いてみました。


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肝心の臨床試験における効果です。製剤のパンフレットからですが最も大規模な海外第三相試験で、6ヶ月投与後の1ヶ月あたりの片頭痛日数はプラセボ群でベースラインから2.3日、対してエムガルティ120mg投与群では4.3日減少しています。ベースラインでは月平均9日程度だったようですから、プラセボ群ではそれが6〜7日程度に、エムガルディ群では4〜5日程度になったというわけですね。他の試験の報告を見ても概ね同様の結果が再現されているようです。


今回の〜マブ薬はどの薬も残念ながら発作を無くすことはできず、発作日数を減少させただけですが、それでも1回の発作が非常に辛く、大きな生活上の損失をもたらすということを考えると、投与に見合う価値は十分あるのかもしれません。月平均の差が例え2日程度でも、1年あればそれは24日間もの差になるわけですから。確実に減らせるというのであれば心理的安心感が高いように感じます。


また副作用も心配すべきものは特段に報告されてはいません。


〜マブ薬の注意点


さて、ガルカネズマブを筆頭に今後日本でも使われるであろう〜マブ薬ですが、注意点としては先にも書いたように、皮下注射薬であること、それと費用でしょうか。



基本的に予防薬が毎日服薬せねばならず、かつ効果もはっきりしないことが多いのに比べれば、痛い思いはしても、月に1回の通院で済むならなんとかなろうかという気はします。同じ作用機序のフレマネズマブは3ヶ月に1回でOKでもあります。自分でできればいいのですけどね。


アトピー性皮膚炎、喘息、鼻茸を伴う副鼻腔炎に対してとても効果を発揮することで話題になっている皮下注射薬デュピクセントは自己注射も可能なのでそうなれば、と感じます。

デュピクセントを使用される患者さんへ|総合TOP|サノフィ株式会社


〜マブ薬が使われている他国を見ると費用に関してはやや心配があります。アメリカでは1回につき627.6ドル(!)の価格設定がされているようです。とてもとても高いですが、カバーできる保険制度もあるようで条件によっては大分負担を減らせるようです。〜マブ薬の先鞭をつけるガルカネズマブの薬価は4月に収載されるはずです。3割負担でそんなにお財布が傷まないことを期待したいところです。




映画「レナードの朝」原作を書いたサックス先生の本です。余り知名度ありませんが。
実は片頭痛に関して私の好きな一般書は今のところこれだけです。古いのでCGRPなんて出てはきませんが、症例紹介に関しては他の本に負けないでしょう。様々な片頭痛の有り様を豊富な事例を通じて紹介してくれています。

この記載に出会ったとき、おおっと思いました。まさに自分の片頭痛時の症状です。今は光や音への感覚過敏症として捉えられており、片頭痛の多くの方が悪心と共に持つ併発症状でもあります。

〜第二のタイプは感覚の刺激と興奮性の広がりによってひき起こされる興奮だが、これはあまりにも強いので、かつてティソーが唱えた不寛容な感覚刺激という言葉を思い起こさせる。片頭痛の患者はとくにまぶしがり症になりやすい。それは光によって引き起こされ、眼だけでなく全身がひどく不快に感じられる。光を避ける患者の行動は、発作の症状の中では外部から見て最もわかりやすい特徴である。

物音に対して過敏に反応し、それを耐えがたく感じることー音声過敏症ーも、重い発作の特徴である。遠くの物音、車の騒音、わずかな滴の音も耐えがたいほど大きく聞こえて、患者を苛立たせるのだ。


レナードの朝 (字幕版)

レナードの朝 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video


サックス先生原作の傑作映画のリンクも貼っておきます。
私が高校生のときの名作です。


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*1:ちなみに「へん頭痛」の「へん」は医学用語としては「片」を使います。よく「偏」頭痛とも書かれますが、医学用語としては間違いです。詳しく知りたい方はこちらをどうぞ→ コラム | 岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野

自分を知り、自分をかえていく