代表です。
ジメジメした気候になってきましたね。
体調管理に気を配りたいと思います。
今日はそんな体調とADHDの関係を示すような論文の紹介です。以前現行のはてなブログに移る前に一度公開していたのですが、再掲します。執筆は先日退職した学術広報佐原です。
紹介するのは、スウェーデンのカロリンスカ研究所のLipskerらによる症例報告です。
A case report and literature review of autism and attention deficit hyperactivity disorder in paediatric chronic pain Acta Paediatr. 2018 May;107(5):753-758)
「小児慢性疼痛患者の背景にあるADHDやASDー症例報告とレビュー」と訳しておきます。
【要約】 Abstract
精神疾患領域において小児の慢性疼痛は一般的であるが、神経発達障害の併発率は不明である。今回の症例報告では、重篤な小児慢性疼痛患者が実は注意欠陥/多動性障害 (ADHD)とアスペルガー症候群 (のちにASD)を併発していたケースが報告されている。痛みに対する様々な治療が試みられ失敗を繰り返していたが、ADHD薬 (メチルフェニデート;リタリン)の投与によって有意な機能および痛みの改善が見られたという。小児性慢性疼痛において、ADHDやASDの合併が論文として報告されたのはこの報告が初めてとなる。
結果をまとめると
・ADHDとASDが背景にあることがわかり、メチルフェニデートの投薬を行ったところ痛みが軽減した。
・投薬と同時に両親にアクセプタンス&コミットメント・セラピー(Acceptance and commitment therapy; ACT)を行ったところ両親の抑うつや娘の痛みに対する不安が減少した。
結論として、合併する神経発達疾患の行動評価や適切なスクリーニングを行うことで、(治療が困難とされている)小児性慢性疼痛への治療の選択肢が広がるかもしれない。
【研究背景】 Background
慢性疼痛は原因不明の痛みが3ヶ月以上再発を繰り返しながら続く病因不明の疾患であり、それは(成人特有の疾患ではなく)小児にも増えている疾患である。現在、痛みを和らげ、QOLを向上させるような特効薬はなく、臨床現場では治療法の模索が続いている。
小児慢性疼痛と神経発達障害(ASDやADHD)との関連は未だ報告された例はないが、近年の研究では「原因不明の痛み」と「神経発達障害」の関連が示唆され始めている。たとえば、腹部の疼痛とASD、慢性片頭痛とADHDの併発がこれまでに報告されている。
今回紹介するケースはスウェーデンに住む6歳の少女が対象だ。下記のような症例である。
生後9ヶ月頃から慢性の疼痛を経験し、ペインクリニックに通っている(初め、両親はひざの痛みだと思っていたが)1歳を過ぎ3歳頃までに慢性の頭痛や膝関節および筋肉の痛みを訴え始める
軽く触れたり押したりする圧力だけで痛みが悪化する(運動療法はできない)
社会的な接触、心理的ストレス、強い光や音刺激によって痛みが増す痛み止めはほとんど効かない
家族病歴は祖父が関節炎および乾癬、両親が片頭痛もちである
知的指数は正常で、他の合併症は診断されていない
【研究結果】 Results
痛みの病因が不明なため様々な科に罹り、診断と治療を受けてきたが、痛みを緩和させることができなかった。ペインクリニックでは医師と心理士による認知行動療法(CBT)が行われた。慢性疼痛には効果があるとされている治療法である。少女の心理・社会的な発達特性をよく観察してみると、彼女は下記のような特性があったという。
4歳の頃から同級生や一緒に遊ぶことに興味を抱かなかった
予期しない変化に不安や抵抗を感じていた
病院での診察中も多動であった
特別、馬やその他の動物に興味があった
彼女の、そして両親の行動評価をしていくと彼女の症状(疲労感・多動・易刺激・社会活動の困難さ)はどうやらただの痛みだけからくるものではないことがわかった。
最終的に精神科で注意欠陥/多動性障害 (ADHD)とアスペルガー症候群の診断を受けた (DSM-IVによる診断)。
少女はメチルフェニデート(リタリン)による治療、両親にはアクセプタンス&コミットメント・セラピー(Acceptance and commitment therapy: ACT)を開始した。
痛みの強さを本人が評価したものが(図1原著より改変)である。ペインスコアはNumerical Rating Scale (NRS)を使用していて、この評価法は痛みを0から10の11段階に分け、痛みが全くない=0、考えられるなかで最悪の痛み=10として、痛みの点数を数値で評価する方法である。
結果は劇的で、治療介入前のアセスメントでは痛みの評価が最悪の痛み「10」だったのに対して、治療介入後~2年後では痛みが「6~1」まで減弱した。
(図2原著より改変)は母親の心理評価を治療前後とフォローアップを通して行った結果が示してある。不安や抑うつの精神心理的評価(Hospital Anxiety and Depression scale: HADS)を母親に対して行っている。この評価法は自己記入式質問票式で不安7項目(HADS-A)、抑うつ7項目(HADS-D)を0-3点で答え、その合計点で精神状態を評価する方法である。
結果を見ると、治療開始前は抑うつが臨床的に有意に高かったが、2年後には抑うつは全くなくなっている。また、両親の「子どもの痛みに対する心配」を評価するためにNumerical Rating Scale-Parents (NRS-P)を使用しており、こちらも治療前は臨床的に有意に高かったが、治療後落ち着いている。
【総評】 Review
2年間のフォローアップで少女の痛みは週に平均一回程度に減り、学校に行けるようになるまで快復した。両親は自身の抑うつ感情や不安も減り、少女の問題行動に対しての訴えもなくなった。ただ、メチルフェニデートの投与なしでは痛みへの不安は出てくるという。
今回のケースレポートでは、子供の行動評価を正しく行うことで疼痛の背景にADHDとASDが見つかった。レトロスペクティヴなレビューだが、慢性疼痛のADHD合併率が2~3倍になるとのプレリミナリーな結果が出ていて驚きである。本症例ではメチルフェニデートが有効だったが、一体どの程度の小児慢性疼痛患者に効果があるのだろうか。
さらに筆者らが強調したいのは両親へのペアトレの効果である。ACTの目的は困難な気分を取り除くことではなく、不快な気分に対して、オープンマインドでいること、過剰反応せずにいることだ。医師だけでなく両親も治療者として、小児慢性疼痛患者の痛みをとることに注力するのではなく、普段の生活において「困らない程度」の痛みにしていくことが大事なのかもしれない。両親の抑うつや不安の感情を減らすことが、少女の行動を大きく改善に寄与したことは確かだろう。
代表より一言
小児の慢性疼痛はしばしば経験しますが、この症例はそういった児の発達障害特性に気づいて対応することが疼痛緩和に役立っています。慢性疼痛自体は、本人にとっては本当の痛みではあるものの、医療関係者にとっては心因性であり、転換症状(ヒステリー)との評価を考えたいこともあります。本症例のように、慢性疼痛へのアプローチだけでなく、発達特性への対応が必要な児は実は結構沢山いるのではないでしょうか。
***************************************
ライデックでは、ブログ以外でも様々な発達障害の情報を発信しています。気になる方は、公式HPや公式Twitterをチェックしてみてください。
⇢お気に入り登録、いいね等応援よろしくお願いいたします!
⇢また、読者のみなさまから紹介してほしい発達障害の話題や記事に対するコメントもお待ちしています!
***************************************
発達特性研究所 (RIDC: Research Institute of Developmental Characteristics)
本記事は株式会社ライデックによって作成されました。できるだけ、簡単でわかりやすい言葉で記述しています。データの解釈や内容表現に誤りがあれば、コメント欄にてご指摘ください。また、弊社HPやTwitterにてさまざまな発達特性情報を発信していますので、興味のある方はそちらもチェックしてみてください。