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芥川賞受賞作に見る発達障害っぽさ

こんにちは。ライデックの加藤です。 

以前発達障害に関する漫画を紹介したことがありますが、小説はどうだろうとその後今まで読んだものを思い起こしてみました。いわゆるエッセイや体験記、告白本のようなものはあるのですが”発達障害がテーマです”といった小説は見つかりませんでした。そこで今回は 

 

第155回芥川賞受賞(2016年上半期)村田沙耶香「コンビニ人間」 

 第164回芥川賞受賞(2020年下半期)宇佐見りん「推し、燃ゆ」

推し、燃ゆ

推し、燃ゆ

Amazon

で描かれる「発達障害っぽさ」について今回はテーマとして取り上げることにしました。

2016年に村田村田沙耶香さんが「コンビニ人間」で芥川賞を受賞されたとき、すぐ読みました。仕事の環境上、登場人物のことを「ASD特性持ちっぽいな」とか「ADHD特性持ちっぽいな」と考えてしまうことが時々あります。

小説はどのように解釈しても読者の自由です。「コンビニ人間」の主人公がASDっぽい、「推し、燃ゆ」の主人公がADHD持ちっぽいと感じたのでそれぞれどんな点がそれっぽいのか書いてみます。医師としてどう思うか代表にも聞いていますので最後まで読んでいただけると嬉しいです。  
※個人的な感想が多くあります。また内容に触れているところがありますので、これから同作品を読みたい人はご注意くださいね。

 

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芥川賞とは

まず、芥川賞とは、どういった文学賞でしょうか。2015年上半期には又吉直樹さんが「火花」で受賞されたことで大きな話題になりました。芥川賞には「又吉以前」と「又吉以後」と言われるくらいインパクトのある受賞だったようです。 

以下、Wikipediaなどから抜粋。

芥川龍之介賞(通称芥川賞)は各新聞・雑誌に発表された純文学短編の無名もしくは新進作家に与えられる文学賞。日本文学振興会によって選考が行われ、賞が授与される。「新人」「無名」に明確な基準はなく、曖昧であり、また「短編」についてもおおむね原稿用紙100枚から200枚程度の作品が候補に選ばれていることが多い。同時に発表される直木三十五賞(通称直木賞)との境界も曖昧である。純文学とは娯楽性よりも芸術性に重きを置いている小説で日本文学における用語。直木賞が対象とする大衆小説とは逆。

「コンビニ人間」のASD特性持ちっぽさ

あらすじ(Amazonより抜粋)

第155回芥川賞受賞作!
36歳未婚女性、古倉恵子。
大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。これまで彼氏なし。
オープン当初からスマイルマート日色駅前店で働き続け、変わりゆくメンバーを見送りながら、店長は8人目だ。日々食べるのはコンビニ食、夢の中でもコンビニのレジを打ち、清潔なコンビニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、毎日の安らかな眠りをもたらしてくれる。
仕事も家庭もある同窓生たちからどんなに不思議がられても、完璧なマニュアルの存在するコンビニこそが、私を世界の正常な「部品」にしてくれる――。
ある日、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は「恥ずかしくないのか」とつきつけられるが……。
現代の実存を問い、正常と異常の境目がゆらぐ衝撃のリアリズム小説。

 

 ASD特性持ちっぽいところ

幼少期エピソード

  • 公園で死んでいた小鳥を焼き鳥にして食べようと言った。(周りの子はかわいそうと泣いていた)
  • 男子が喧嘩をしていたとき「誰か止めて」という言葉に、「止めるのか」と思いスコップで頭を殴って止めた。
  • ヒステリックに怒る女性教師を止めるためその先生のスカートと下着をおろして静かにさせた。
  • 両親が「どうやったら治るのだろう」と悩みカウンセリングに連れていかれるなどしたが余計なことをしゃべらなければトラブルにならないことに気づき、大学まで過ごした。


コンビニ店員としてのふるまい

  • 完璧なマニュアルがあるので店員として機能できる。
  • 通勤から退勤までほぼ固定化された生活が可能。朝食、昼食、夕食もほぼコンビニでまかなう。休みの日はコンビニで働くための休息。早く寝るのは翌日コンビニで働くため。
  • 変動する天気でさえ、雨の日はこれが売れる、寒い日はあれが売れるなどのパターン化して対応する。

コンビニバイトは楽に見えるかもしれませんがサービスが多岐に渡っていて覚えることがたくさんありますよね。基本的なマニュアルはあってもお客様はその通りに動いてくれないのでパターン化するのは無理では・・・と思っていましたが、一見イレギュラーに思える出来事も主人公はその応答すべてマニュアル化して対応していました。

 

医師に聞いてみたい

1.「コンビニ人間」の主人公はASDだと思いますか?

2.妹から「お願い、普通になって。治してよ」と言われるシーンがありました。家族が受診や治療を希望しているが本人が必要性を感じていないとき、どうしたらいいのでしょうか?またこの主人公は医療的な助けが必要でしょうか?

 

→お答えしたいと思います。

1.2.とも、本作品の主人公に関しては、私も読み進めていく中でASD特性を持った人として描いているのかなと感じました。でも最後まで読んで、これはもう「コンビニ人間」というファンタジックな存在の進化のお話だと確信しましたので、質問への答えは否です。古倉恵子さんはASDではなく、「コンビニ人間」であり、ご家族にも諦めてもらうほかありませんーというのが私(代表)の解釈です。

 

とはいえ、一般的な話として、ASD特性を持っている方のご家族が受診を希望しているけど、本人が必要性を感じていないときどうするか?ということに関してはケースバイケースだと思います。

基本的に「ASD特性がある」ことを持って医療対象にはなるわけではなく、それが「社会や職業その他の重要な機能に重大な障害を引き起こしている」ときに診断可能となり医療対象になりえます。

古倉さんのようなケースの場合、家族は「自分たちが考える正常さ」を求めているだけに感じますので私が相談に乗っても、今まで通り見守ってください、としか言わない気がします。御本人が、何かしらの内発的動機を持ってご相談に乗ってくれば話は別ですが。

 

とはいえ、客観的に明らかに問題があるけれども、本人の現実検討能力が足りないために本人が受診を望まない場合(その最たるものが子供なわけですが)には、地域の支援機関にまずは相談に行っていただき、場合によっては何らかのアウトリーチ的対応が必要なはずです。どういった手段があるかはまた別な機会に。

 

 「推し、燃ゆ」に見るADHD特性持ちっぽさ

あらすじ(Amazonより抜粋) 

【第164回芥川賞受賞作】

「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」

朝日、読売、毎日、共同通信、週刊文春、ダ・ヴィンチ「プラチナ本」他、各紙誌激賞! !

三島由紀夫賞最年少受賞の21歳、第二作にして第164回芥川賞受賞作。
逃避でも依存でもない、推しは私の背骨だ。アイドル上野真幸を“解釈“することに心血を注ぐあかり。ある日突然、推しが炎上し——。デビュー作『かか』は第56回文藝賞及び第33回三島賞を受賞(三島賞は史上最年少受賞)。21歳、圧巻の第二作。

 

ADHD特性持ちっぽいところ

  • 学校へ行く時のリュックサックを遊びに行った時の中身のまま行ってしまう
  • メモに書いたのにレポートを忘れる。メモを見るのも忘れる
  • 友だちに借りた教科書を昼休みに返すと約束したが忘れる
  • 何度も言われてもバイトのシフト希望を出せない
  • バイトでも一度で済む作業を忘れて何度も行き来してしまう
  • 欠勤連絡を数日間するのを忘れてバイトをクビになる


一方で、

  • 推しの仕事に関すること(出演舞台の時代背景など)なら詳しくなりテストの点数が高くなったりする
  • 推しの写真なら携帯の画像フォルダをきっちり整理することができる

もしかすると学習障害!?

  • 九九、アルファベット、漢字が覚えられない
  • パソコンを使えば正しく変換できて文章を作れる

 

”推し”とは最近の言葉ですね。簡単に言うと応援している人でしょうか。小説の中では単なるファンとか好きな芸能人にとどまらず生きている意味、生きていくために必要な存在で、(以下、引用)

 

「推しは命にかかわるからね」

「自分自身の奥底から正とも負ともつかない莫大なエネルギーが噴き上がるのを感じ、生きるということを思い出す」

「(推しを推すことは)中心っていうか、背骨かな」

 

と書かれています。

病院で2つの診断名がついた、学校に診断書を提出している、自分は普通じゃないから働けないというような記述があります。身体に関することかもしれませんし、発達障害の診断を受けているのかどうかはっきりとした記述はありませんが、私はそのような印象を受けました。ただし、予約を何度も反故にしてしまううちに病院には通わなくなっているようでした。推しを失った主人公がどうなっていくのか気になるところですがたいていは新たな推しを得ていくのではと思っています。

医師に聞いてみたい

1.「推し、燃ゆ」の主人公はADHDだと思いますか?

2.この主人公は医療的な助けが必要でしょうか。

 

→お答えします。

1. この彼女の場合にはADHD的だな〜と感じつつ読み進め、最後まで印象は変わりませんでした。でも治療を受けていたのは違う部分かもしれませんよね。

 

2. すでに医療的な助けがある点で必要だったわけですが、小説からは何に対してどのような医療対応がされていたかはよくわかりませんでしたね。

それが無くて外来に来て列挙してくれた部分があるから辛い、ということを言ってもらえたらADHDを鑑別すべく検査に進んでいくと思います。また、学習障害的な部分もかなり気になりました。

九九・アルファベット、漢字が覚えられない、という方にはしばしば外来でも出会いますが、私(代表)が診察するときにはすでに成人しておられる方が多いのです。もし、小学校入学後早期にその困難さを先生にわかってもらえて何らかのサポートを得ていたら、例えば進学や就職における選択肢に違いが出たのではないか、と感じます。

ですので、主人公さんがまだ高校生年齢であることを考えると、学校にいる間は学校からのサポートが得られるように相談をしていくことも可能性としてあるかなと。親御さんにもそれは怠けではなくて、特性/能力的な部分であるとしっかりと認識してもらいたいところです。

最後に

漫画で描かれる発達障害でご紹介した作品は、発達障害や精神科医療がテーマとなった創作作品やコミックエッセイ、事実を基にしたフィクションなどではっきりと「発達障害」という言葉が出てきています。小説ではそのようなことはありません。「コンビニ人間」「推し、燃ゆ」両方とも発達障害やASD、ADHDなどの言葉は出てきません。しかし、「コンビニ人間」「推し、燃ゆ」の検索ワードのあとには「発達障害」と続いているので、同じように感じた人も多かったのでしょう。宇佐見りんさんご本人もインタビュー(https://www.nhk.or.jp/radio/magazine/article/my-asa/WLJFRwVmQ-.html)で聞かれていますが「発達障害である」とも「違う」ともお答えにはならず、主人公の「ままならないところ」を描きたかったと言われていました。

 主人公の特性に注目して今回のブログテーマとしましたが、文庫本版「コンビニ人間」の解説を中村文則さん(「教団X」等の著者)が書かれており、 

社会は多様性に向かっていると言われるが、この小説にある通り決してそうではなく、(略)社会が「普通」を要求する圧力は、年々強くなっているようにも思う。

 と述べています。私も読んでいて普通圧力へのモヤモヤ感がありました。(主人公の同級生+その家族でバーベキューをするシーンなど)普段なるべく『普通はこうだ』と言わないように気を付けていますがつい口から出てしまうことがありますね。「コンビニ人間」に出てくる古倉さんと白羽さんのように時にはKY(その場の空気を読めないという意味)に発言できる(してしまう)二人に少し羨望してしまいました。”普通は”言えないセリフがたくさん出てきますのでどうぞ小説として楽しんでみてください。

ちなみに”推し”は広辞苑にはまだ載っていないそうです。NHKの番組でも「推し活」が取り上げられていましたが未来に残っていく言葉なのかどうか・・・宝塚やジャニーズには別の呼び方があるみたいですよ。

 その他2020年~2021年に文学賞などにノミネートされたもので読んだものを数冊ご紹介します。コロナ禍で梅雨、ですので読書に最適の時期です。新しい作家さんや作品に出会うきっかけになれば嬉しいです。

それではまた。

 

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 発達特性研究所 (RIDC: Research Institute of Developmental Characteristics)

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