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エムガルティ体験記

代表です。

3月に入り若干暖かくなりましたね。

新型コロナの方は相変わらずで、特にオミクロン株が主流になってからは身近にも感染された方が増えてきているのでは思います。無症状の方も多いので、正直自分だって感染してわからないまま治癒していることがあるのではと疑いますね。

3回目のワクチンをそろそろという方もいらっしゃると思いますが、副反応対策としては翌日を休みにできるようにしてください。私は1月下旬に受けましたが、副反応としては左腕が痛い以外は殆どなかったです。               

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さて、今日は以前書いた、片頭痛の新しい薬、エムガルティ(一般名:ガルカネズマブ)を私自身が始めましたのでその報告です。上の謎の図は私の頭痛経過を示していますが、また後ほどお見せします。

www.tsudanuma-ridc.com

 

エムガルティとは

エムガルティは皮下注射で投与される片頭痛治療薬です。

一般名(化学物質名)は「ガルカネズマブ」と呼ばれます。

この薬、非常に効力の高い薬で、私も実感しているのですが、理解のキーワードは次の3つ。これに沿って簡単に解説してみます。

・抗体医薬

・CGRP

・月1回 

エムガルティは抗体医薬品です。

抗体はそもそも免疫系が外来分子を攻撃するためにリンパ球が作り出すミサイルのようなものと紹介されることが多いですね。新型コロナウイルス感染と重症化予防のためのワクチンでも盛んに「注射後の抗体価の上昇が~」と言われますが、あの抗体です(細かい差異は置いときます)。

抗体は、特定の分子(タンパク質)を標的として、そのタンパク質の一部に結合することでその機能を阻害します。

そして、その抗体(つまりはエムガルティ)の標的とする物質がCGRP、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene- related peptide)の略です。37個のアミノ酸からなるペプチド(小さなタンパク質とご理解ください)で、神経末端で作られた後に放出され、強力な血管拡張作用を持っています。

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片頭痛はその症状発現に血管拡張が大きく関わっており、エムガルティがCGRPに直接結合してその働きを阻害することでCGRPによる血管拡張を防ぎ、片頭痛症状の出現を予防します。

エムガルティの投与経路は皮下注射、それを月に1回行うことで予防効果を持続させるわけです。投与ペースですが、初回に2本同時に、そして次の月からは1本ずつ投与となります。皮下注射ということで、どこに注射するか気になるかもしれませんが、私は病院の勧めでお腹を選択しました。お腹に2本注射されるのは稀有な体験といえましょう。他に上腕やお尻も選択肢です。

(図はメーカーホームページから)

エムガルティの投与方法

私における効果

さて、エムガルティの概要を説明したところで、実際効果があるのかに関しての実体験を書いてみます。

臨床試験におけるエムガルティの効果は最も大規模な海外第三相試験で、6ヶ月投与後の1ヶ月あたりの片頭痛日数はプラセボ群でベースラインから2.3日、対してエムガルティ120mg投与群では4.3日減少。ベースラインでは月平均9日程度だったようですから、プラセボ群ではそれが6〜7日程度に、エムガルディ群では4〜5日程度になったというわけですね。

つまり、臨床試験で投与された人への効果は、月平均で2-3回減らしたということです。

こういったデータを見るときに評価が難しいのが、その月平均2-3回という効果が、果たして私自身には実感できるのか、ということです。恐らくですが、臨床試験参加者の中には殆ど効かなかったという人もいれば、ものすごく効いて平均データよりも大きく恩恵を受けた人も混ざっていることでしょう。そのあたり、個人によって薬の効果の実感というのはかなり差があるはずなのです。

 

ということで自分にはどうかなと思いつつ投与後の私の経過をグラフにしてみました。

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図で横軸は経過日数、縦軸は頭痛の持続時間、頭痛の強さはバブルの大きさで示してします。

どうでしょうか。

まだ注射2回の段階で結論は早い気もしますが、頭痛頻度を見ると、注射1回目をした直後から10日ほどは長い持続時間で強い片頭痛が頻発していたのが、2週間ほど経つと明らかに頭痛の頻度が減っています。頭痛バブルの密度と大きさを比較してみてください。

1回目の注射日は0日目、2回目は1ヶ月よりやや遅れて38日目です。

とりわけ14日目から24日目までの頭痛は0となりました。11日間に渡って頭痛から開放される、というのは私にとっては非常に新鮮なことです。

発表されている論文を見ても、注射3回目くらいまでこのように頭痛頻度や強さが直線的に減っていくグラフがありますのでそういう意味では臨床試験結果通りなのかもしれません。

これまでと何が違うのか?

現在私は注射を初めて打ってから50日が過ぎました。当初、注射を打ってから10日目くらいまでは実は効果を実感できず、損したかな~高い注射だったのに(いかに高いかは後述)と思っていましたが、2週間経過してから明らかに変化を感じました。先に書いたように頭痛のない期間を10日ほど経験したのです。

以前個人ブログには書きましたが、私の片頭痛歴は長いです。小学生に上がる頃には頭痛が始まっていたので発症は恐らく6-7歳。小学校で授業中に頭痛が始まり耐えられず手を上げて保健室に行ったら「熱はないわね」で教室に帰され、でも教室に帰るだけの力が無く途中の階段でうずくまって泣いていたことがあります。我ながらかわいそうです・・・

頭痛持ちの方はこのように頭痛の無い方にわかってもらえない経験をしたことがあるでしょう。気持ちの問題では?、気合で治るのでは?、熱が無いなら休むなよ、良かったね頭痛程度で…と、言った側に悪気が無いのはわかるものの、頭痛に苦しむ側としては「そんなんじゃないんだよ~」と訴えても理解されないあの感覚。

 

おっと恨みがましくなってしまいました。恨みを書きたいのではありません。

強調したいのは頭痛の無い10日間が私の日常感覚にもたらした変化がとても大きいことです。

最も大きな変化、それは頭痛薬を携帯していなくても大丈夫と思える感覚が初めて得られたことです。

そう、基本常に私は頭痛薬を持ち運びます。外来診療中、家族サービス中、そして出先からの帰り道、と暮らしているあらゆる局面で不安は尽きません。幸いにも今はトリプタン製剤という片頭痛の発作時特効薬があるため、それさえ持っていればなんとか大丈夫という感覚があります。でも、忘れたときの不安感、は相当なもので、ストレス大きいのです。もしこれで起きてしまったら、市販薬は買えるけど効くかは不安だし、同行してる人にも迷惑をかけたり、またかと呆れられたりしてしまう、と思ってしまいます。

ところが今は違います。もちろん経過図を見ての通り、今でも0ではないのですが、頭痛があったとしても大抵は軽くて持続時間も短いと思えています。頭痛薬の所持を気にせずに動ける、このことがどれだけ気持ちを軽くしているか!ちょっと今までの生活との違いに戸惑いを覚えてます(笑)

副作用とか?

なんだかエムガルティの宣伝ページのようになってきました。

実のところ私にとってもまだ観察期間で、これまで書いた効果がずっと続くのか?は正直わかりません。

また、エムガルティも他の薬同様、アナフィラキシー、ないしはアナフィラキシーショックのような重篤な副作用があることは知られています。

添付文書の副作用部分を貼り付けておきましょう。

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とはいえ、なんですがある意味アナフィラキシーはしょうがない副作用です。なにせどんな薬にもありえるのですから。それに、添付文書では頻度が高いのは注射部位に関連した症状だけですね。実際注射、結構痛いです。

でも慢性的な副作用の報告が無いのは安心ですね。

私自身、特に副作用は感じていません。

それよりも、実際問題として困るのは、エムガルティの価格でしょう。

なにせ高いのです。

注射1本を受けると、保険診療が適用された自費3割分で12000円です。

初回は血中濃度を早期に安定させるため2本打ちますから、24000円かかるのです!保険が効いてこれですからすごいですよね。2ヶ月目からは12000円です。つまり、1年続けると、初回24000円+2ヶ月目からの12000円x11=156,000円もの費用がかかるのです。エムガルティは注射1本120mg含まれていますから、自己負担分は1mg当たりちょうど100円ですね。

これで効果が無ければほんとに泣きたいところです。添付文書にも「本剤投与中は症状の経過を十分に観察し、本剤投与開始後3ヵ月 を目安に治療上の有益性を評価して症状の改善が認められない場 合には、本剤の投与中止を考慮すること。」と注意書きされています。

そう、効果が無いのに続けてはいけません。

また、妊婦さんは乳児への移行を考えてメリットがデメリットを上回る必要がありますし、母乳育児をしているならばその間はとめるようにと指示されていますし、小児を対象とした臨床試験は実施されておらず、このような条件がある場合に安全性がどうかは慎重に考える必要がありますね。

 

本剤の治療を受けるには?

エムガルティの治療を受けるには条件があります。

特殊な薬でもありますので、エムガルティのような抗CGRP抗体注射製剤は、片頭痛ですね、じゃあ注射しましょう、とはならないのです。

 

条件は

  • ①十分な診察を実施し、前兆のある又は前兆のない片頭痛の発作が月に複数回以上発現している、又は慢性片頭痛であることを確認した上で本剤の適用を考慮すること。
  •  ②最新のガイドライン等を参考に、非薬物療法、片頭痛発作の急性期治療等を適切に行っても日常生活に支障をきたしている患者 にのみ投与すること。

という2つが添付文書に挙げられています。

 

①のためには、自らの片頭痛体験をしっかりと語ることができないといけません。そのためには頭痛の記録をしっかりしておきましょう。

②を満たすためには、片頭痛治療を一定期間はしている必要がありますね。

日本頭痛学会が提示している資料から条件部分を貼り付けておきます。

日本頭痛学会

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簡単に書けば、3つです。

1.エムガルティ開始前3ヶ月以上にわたって1ヶ月あたり平均4日以上は頭痛がある

2.睡眠や食生活、適正体重、ストレスマネジメントなどをしても尚日常生活に支障をきたす頭痛がある。

3.発作予防薬に対して、効果が十分でない、副作用で飲めない、安全性に懸念があることのいずれかが確認されている。

 

というわけで、なかなか厳しいですね。

さらに、投与する医者も限定されています。

医師免許取得・初期研修修了後に、頭痛を呈する疾患の診療に5年以上の臨床経験を有す▼本剤の効果判定を定期的に行い、投与継続の是非について適切に判断できる▼頭痛を呈する疾患の診療に関連する日本神経学会・日本頭痛学会・日本内科学会(総合内科専門医)・日本脳神経外科学会の専門医認定を受けている―医師が治療責任者と配置されている

私は太字部分が条件に合わず、自分でエムガルティを処方できません。

また、他に施設条件もあります。

受けよう、と思う方は是非こういった条件を確認してください。

そして必ず頭痛記録をつけてください

 

記録を付けるには

さて、記録を付けることにハードル高く感じる方、大勢いるかと思います。

私もその口で、十分に条件を満たしているものの、しばらく前まで記録はつけていませんでした。

でも今は便利なアプリも揃っています。

是非是非片頭痛の皆さんには、効果の高い治療を受けるためにも記録をつけてほしいと思います。

個人的におすすめは、「頭痛ろぐ」です。

この方のブログにはAndroid版の使用心地が書かれていますが、iOS版もあります。

yskshbym.hatenablog.com

つけ始めると、便利ですよ。頭痛の開始と終了時間、その際の自覚症状と強さ、使った薬、頭痛誘発の種類、それにつけようと思えば睡眠時間を他のアプリと連携して取得してくれますし、何なら片頭痛に悩む他の方々の記録も参考にできます。交流もできるのかも(?)ためしていませんが。

もちろん、紙記録でもOKです。

要は記録をつけることで、客観的に自分の状態を把握することが重要です。

実は投与開始前は心配がありました。頭痛が無いことをどうやって効果として実感できるのだろうと。裁判で無実の証明をすることが実に難しいことからわかるように、存在が無いことの証明はとても困難で、「悪魔の証明」とも呼ばれるのです。ですから、記録をすることで効果を客観的に評価してみましょう。

 

以上、新しい片頭痛治療薬、エムガルティの体験を書いてみました。

一患者としての視点から書きましたので、この記事がどなたかの参考になれば幸いです。

個人的にはこの薬の薬価が安くなる、もしくは一定の条件があれば行政による支援が得られ、恩恵を受けられる方が増えることを願ってやみません。

尚、最後に、一旦始めたら一生続ける必要があるのか?は疑問ですね。私の主治医いわく、十分な改善が得られれば3-4ヶ月で一旦やめてみてもいいと思える、とのことでした。文献的なエビデンスは私自身読んでいないのですが、もしそれが本当なら経済的にも、また通院の労苦を考えても有り難いことです。いずれちゃんと調べます。

 

今日の記事に関して役立つリンク

エムガルティの製薬会社による情報

エムガルティ治療を受けられる「だいだいクリニック」解説記事

エムガルティ添付文書情報

エムガルティ治療を始めた – NorthPage (エムガルティ治療を始めた方の個人blogです。記録をずっと取られて来たようで、とても良い記事だと思います)

エムガルティ使用者のレビュー(英語:ここではあまり評価が高くないですね。効果はひとそれぞれ、ということがよくわかります)

エムガルティと同様のエレヌマブ(一般名)についての最新学術論文の一例

('Effectiveness and safety of erenumab and galcanezumab in the prevention of chronic and episodic migraine: A retrospective cohort study' J Clin Pharm Ther. 2022;00:1–10.)

尚、芸能人のオードリー若林さんがエムガルティの投与を受けたそうですね。ラジオでお話された内容がネット検索で見つかるかと思います。5日間頭痛薬を飲まなかった!と驚いてますね。仲間です。

 

自分を知り、自分をかえていく