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「食事がうまくとれない」は、摂食障害? A S D? 〜ARFIDについて~

公認心理師の沼田です。

ライデックでは主にCTP(認知トレーニングプログラム)を担当しています。

私は摂食障害の方への認知行動療法を千葉大で行っていますが、今回はやせを呈する摂食障害と自閉スペクトラム症について自閉スペクトラム症(ASD)との関連について書いてみます。

食事がうまくとれない

精神科を受診する患者さんの中には、食事がうまくとれないことが主訴の患者さんがいます。

詳しいお話を伺うと、

「何をどのくらい食べたらいいのかがわからない」

「一人前がどのくらいかわからない」

などとおっしゃいます。

さらに、そのように訴える方の多くに、食事がうまくとれなくなる以前に厳しいダイエットをしていたという方がとても多いのです。ダイエット中に、厳しい食事制限をして、初めのうちは体重が減ることへの喜びや自分で自分をコントロールできているという達成感を得られるので、低体重が進行して周囲の人が心配してもご本人は全く問題と思わないことがあります。

しかし、厳しいダイエットでは、身体は飢餓状態となり、悲鳴をあげてしまうことになります。現在のような飽食の時代に生まれ育った私たちにとって、飢餓という言葉は遠い国や昔のことだと思われるかもしれませんが、細胞レベルでは栄養の枯渇した飢餓状態と言えます。脳の細胞にも大きな影響を与えます。

飢餓状態となった細胞は死活問題ですから、脳からの指令で強い食衝動を起こし、一旦食べ始めると食べるのがやめられないというリバウンドやいつも食べ物のことばかり考えてしまうというようなことが起こります。(これに関しては2017年に名古屋大学の研究者が発表した動物実験がとても興味深いです→共同発表:飢餓を生き延びるための脳の仕組みを解明)

そのような食衝動に悩ませられる状態は、それまでうまく体重や体型や食事量をコントロールできていた(と考えていた)ご本人にとってはとても辛い状況と思われます。自分でなんとかしようと思っても身体の方は飢餓状態に対する代償機構を発動させてしまっていて、戻そうにも戻せない状況になっているとも言えます。

ある期間、普通の食事から離れ、家族や友人との食事の機会も避けて過ごしていると、いざ食べてみようと思った時には、以前自分はどのくらいの量を食べていたのか、他の人はどのくらいでお腹いっぱいになるのか、わからなくっている、摂食障害の患者さんの中には、このような困りごとを語る方が多いのです。

 

摂食障害の中で、やせを呈している場合は神経性やせ症と診断されます

神経性やせ症の診断基準として、精神疾患の診断・統計のマニュアルのDSM-5(アメリカ精神医学会)では以下のように定義されています。

A.必要量と比べてカロリー摂取を制限し、年齢、性別、成長曲線、身体的健康状態に対する有意に低い体重に至る。有意に低い体重とは、正常の加減を下回る体重で、子どもまたは青年の場合は、期待される最低体重を下回ると定義される。
B. 有意に低い体重であるにもかかわらず、体重増加または肥満になることに対する強い恐怖、または体重増加を妨げる持続した行動がある。
C. 自分の体重または体型の体験の仕方における障害、自己評価に対する体重や体型の不相応な影響、または現在の低体重の深刻さに対する認識の持続的欠如。


Aは通常見込まれる体重より明らかに低体重です。DSM-5による記載では成人ではBMI(Body Mass Index)が17未満であり、子どもでは子供向け年齢別BMIで5%以下に位置しています。

Bに記されているように、神経性やせ症の低体重の要因は、体重や体型に対する強いこだわりにあることが分かります。体重が増えることへの恐怖感があるのです。

また、Cでは、自分の価値は痩せていることにあると考えて低体重の深刻さを認識していない状態であるということです。体重や体型についての意味が歪んでいて、痩せているにも関わらず太っているという認識を持つことがよくあります。

一方で、神経性やせ症と同様にやせを呈する摂食障害に、回避・制限性食物摂取症(ARFID)という疾患もあります。

ARFIDは神経性やせ症に似ていて区別が難しい事があるのですが、上記の診断基準のBにある「体重増加または肥満になることに対する強い恐怖」がありません。それにも関わらず、食事がうまくできずに低体重を維持していて生活に問題が生じて困っている人たちがいます。

 

回避・制限性食物摂取症(ARFID)とは?

回避・制限性食物摂取症とは、Avoidant Restrictive Food Intake Disorderの頭文字をとってARFID(アーフィッド)と呼ばれています。

文字通り、食物摂取を回避したり制限したりして、家族と一緒に食事ができなくなったり、一緒に食事をする可能性がある状況での友人との時間の共有ができなくなったり、また、体重減少や栄養不足に陥り、栄養補助食品への依存が見られるなど社会的・身体的機能の障害が生じます。

では、ARFIDは、神経性やせ症とどこが違うのでしょうか。上述したように、ARFIDは神経性やせ症のように、体重や体型に対する恐怖や認知の偏りが見られません。つまり、太る恐怖から食事を制限したり回避したりするわけではないのです。食事を回避したり制限したりする理由としては、食物の外見、色、臭い、食感、温度、味に過敏な場合だったり、窒息や嘔吐を嫌悪している場合だったり、食べることや食物に無関心の場合だったりします。ARFIDの発症年齢は低く、小児科で多く見られる疾患です。神経性やせ症は女性に多いのですが、ARFIDは男性の方が多いと言われています。また、ARFIDに自閉スペクトラム症の併存が多いことも知られています。

ご参考までに、DSM-5におけるARFIDの診断基準は、以下のように定義されています。

A.摂食または栄養摂取の障害(例:食べることまたは食物への明らかな無関心;食物の感覚的特徴に基づく回避;食べたあと嫌悪すべき結果が生じることへの不安)で、適切な栄養、および/または体力的要求が持続的に満たされないことで表され、以下のうち1つ(またはそれ以上)を伴う:

  1. 有意の体重減少(または、子どもにおいては期待される体重増加の不足、または成長の遅延)
  2. 有意の栄養不足
  3. 経腸栄養または経口栄養補助食品への依存
  4. 心理社会的機能の著しい障害

B.その障害は、食物が手に入らないということ、または関連する文化的に容認された慣習ということではうまく説明されない。

C.その摂食の障害は、神経性やせ症または神経性過食症の経過中にのみ起こるものではなく、自分の体重または体型に対する感じ方に障害を持っている形跡がない。

D.その摂食の障害は、随伴する医学的疾患によるものでなく、または他の精神疾患ではうまく説明できない。その摂食の障害が他の医学的疾患または精神疾患を背景として起きる場合は、その摂食の障害の重症度は、その状態または障害に通常関連するような摂食の障害の重症度を超えており、特別な臨床的関与が妥当なほどである。

ARFIDでは、食物の外見、色、臭い、食感、温度、味に対する感覚の過敏さや、低年齢で発症し男児に多いことなど、自閉スペクトラム症との共通点も多いことに気づきます。

自閉スペクトラム症とARFIDの関連

ここで、自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)について、考えてみたいと思います。

まずは、ASDの診断基準を見てみましょう。DSM-5におけるASDの診断基準では、以下のA、B、C、Dを満たしていることが必要です。

 

A:社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的障害(以下の3点で示される) 

1.  社会的・情緒的な相互関係の障害。

2.  他者との交流に用いられる非言語的コミュニケーション(ノンバーバル・コミュニケーション)の障害。

3.  年齢相応の対人関係性の発達や維持の障害。

B:限定された反復する様式の行動、興味、活動(以下の2点以上の特徴で示される)

1.  常同的で反復的な運動動作や物体の使用、あるいは話し方。

2.  同一性へのこだわり、日常動作への融通の効かない執着、言語・非言語上の儀式的な行動パターン。

3.  集中度・焦点づけが異常に強くて限定的であり、固定された興味がある。

4.  感覚入力に対する敏感性あるいは鈍感性、あるいは感覚に関する環境に対する普通以上の関心。

C:症状は発達早期の段階で必ず出現するが、後になって明らかになるものもある。

D:症状は社会や職業その他の重要な機能に重大な障害を引き起こしている。

 

今回注目したいのは、B(限定された反復する様式の行動、興味、活動)です。これは、ASDの、いつもと違う状況が苦手で同じ状況や行動パターンを好むという、特徴を示しています。例えば、毎日同じ道、同じ時間の電車に乗って仕事に行くとか、健康によいと聞けば毎朝同じ朝食を食べ続けられるなどです。神経性やせ症でも、毎日体重を測り、カロリーを計算し、決まった量の運動をこなすという繰り返し行動の特徴があります。そして、ASDにおいても神経性やせ症においても、この習慣的な行動を変えることに大きな不安と抵抗感を抱き、簡単には変えることができません。

 

先程、ASDは、ARFIDで共通点が多いことをお話ししましたが、神経性やせ症との共通点も注目されています。ですので、食事がうまくできないと言った場合には、摂食障害の背景にASDの存在があるかもしれません。食事がうまくできない理由をしっかりと検討していくことが大切です。

(参考文献)

Brigham, K. S., Manzo, L. D., Eddy, K. T., & Thomas, J. J. (2018). Evaluation and Treatment of Avoidant/Restrictive Food Intake Disorder (ARFID) in Adolescents. Curr Pediatr Rep, 6(2), 107-113. doi:10.1007/s40124-018-0162-y

Zimmerman, J., & Fisher, M. (2017). Avoidant/Restrictive Food Intake Disorder (ARFID). Curr Probl Pediatr Adolesc Health Care, 47(4), 95-103. doi:10.1016/j.cppeds.2017.02.005

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