学術担当学生の萱原です。学校では解剖実習が始まり、充実しながらも慌ただしい日々を送っております。私の通う大学の解剖実習室は国内でもトップクラスに新しい設備があり、あまりホルマリンの匂いもつかず、快適な環境で学べます。
さて、今回のテーマは抗ADHD薬における中枢刺激薬と非中枢刺激薬の共通点と相違点に関しての論文紹介です。
中枢刺激薬? 非中枢刺激薬?
ADHDのお薬には大きく分けて2つのグループがあります。それが中枢刺激薬と非中枢刺激薬です。これらのグループは何が違うのでしょうか?
中枢/非中枢という呼び名はその化学構造の違いから名付けられています。国内で承認されているものにはコンサータやビバンセがあります。中枢刺激薬は非中枢刺激薬に比べて即効性を自覚できますが、国内では2019年より流通管理のため、登録制にて扱われています。
非中枢刺激薬は中枢刺激薬ほどの即効性はなく、服薬し続けることで効果を発揮します。国内で承認されているものにはストラテラやインチュニブがあります。
今回紹介する論⽂は、 中枢刺激薬と⾮中枢刺激薬では脳内の作用の仕方に違いがあるのかを探ったものです。
ちなみにArchives of General Psychiatryという精神科領域に中では極めて権威のある雑誌に掲載されたものです。
この論文で示されているのは主に次の点です。
・中枢刺激薬も非中枢刺激薬も共にADHD-RS-IVのスコア低下に寄与する
・メチルフェニデートとアトモキセチンでは働きかける脳の位置に差異がある
実験概要
今回の実験の目的は、中枢刺激薬であるメチルフェニデートと、非中枢刺激薬であるアトモキセチンを被験者に投与し、抗ADHD薬としての効果と、脳の活性化はどのように変化しているかを調べることです。この目的のために、6〜8週間程度の投薬後に課題を行わせてその結果を調べています。
この実験を完遂したのは7歳〜17歳の計36名です。参加者は全員DSM-IVにおけるADHD
の診断基準を満たしています。彼らは、メチルフェニデートでは平均52日、アトモキセチンでは平均54日の投与を受けました。
投薬が行われた前と後で被験者の認知力を評価するためにはGO/ NO GO課題と呼ばれる評価法が用いられました。この課題では、GO試行と呼ばれる頻度の高い刺激がNO GO試行と呼ばれる頻度の低い刺激と織り交ぜられて被験者に与えられます。被験者は、GO試行の際には可能な限り早くボタンを押し、NO GO試行の際にはボタンを押さないことが求められます。
今回の課題では刺激としてスパイダーマンのプロモーション画像が用いられたそうです。被験者はGO試行を認めると、右手で光ファイバー式のボタンを押します。この際にかかった時間もReaction Timeとして収集しています。
また、この課題を実施しているときにfMRI検査を行っています。fMRI検査では脳のどの部位が活性化しているかを画像化することができます。この検査により、メチルフェニデートとアトモキセチンがそれぞれ脳のどの部位の働きに影響している可能性があるかを調べることができます。
実験結果
実験結果については、GO/ NO GO課題、ADHD-RS-IVの成績とfMRIの結果の二つを分けて解説していきます。
1.GO/ NO GO課題、ADHD-RS-IV成績
被験者の認知能力の変化はGO/ NO GO課題で計測しています。
以下の表に結果をまとめます。正しく抑制はNOGO試行に対し、ボタンを押さなかったケースであり、正しく反応はGO試行に対し正しくボタンを押せたケースを表します。また、反応時間と反応時間標準偏差の単位は共にミリ秒です。
いずれの薬も投薬前後で値に統計的に有意な変化が見られます。正しく抑制、正しく反応の割合は、増加していると薬により課題に対しての正答率が増加したと考えられるのでポジティブな結果が得られたと考えられます。また、反応時間についても変化が見られます。反応時間は、刺激が与えられてから、被験者がボタンを押すまでの時間なので減少していることは反応時間が短縮していることを示し、こちらもポジティブな結果が得られたと考えられます。反応時間標準偏差も大事で、反応時間の平均が短縮するとともに、ばらつきも少なく(=パフォーマンスが安定)していますね。
尚、ADHD‐RS-IVというADHD特性の強さを探る評価スケールの点数では、いずれの投薬前後でもスコアの改善が見られ、どちらの薬も抗ADHD薬としての効果はあったことがわかります。
2.fMRI
研究では、上記のGO/ NO GO課題やADHD-RS-IVの他にもfMRIを用いた脳の活性部位調査も行われています。この fMRIでは、被験者が課題に取り組んでいる最中に脳のいずれの部位が活性化しているかを計測します。今回の fMRIで得られている画像は以下のとおりです。
図Aはメチルフェニデートとアトモキセチンの両方でADHD傾向の抑制が共通して確認された両側の一次運動野を示しています。図Bはメチルフェニデートとアトモキセチンで賦活と抑制の逆の反応が得られた部位を示しています。右の下前頭回、左の前帯状皮質、左の補足運動野、左右の後帯状皮質です。
まとめると、以下のようになります。
↓が抑制、↑が賦活を表しています。赤字となっているものはメチルフェニデートとアトモキセチンで作用が逆であった場所です。
同じADHDのお薬なのに細かい作用を見ていると作用が逆というのは面白いですね。
下向きの抑制したという結果は、一見して脳の働きが低下しているようなデータに思えますが、単純に脳の働きが低下したとは言い難いことに注意が必要です。むしろ、脳が効率的に働くようになったと考えることもできます。難しいですね…
本研究の意味
今回ご紹介した論文は、ADHDの薬として有名なメチルフェニデート(コンサータ)とアトモキセチン(ストラテラ)について比較した実験をしています。課題結果を見ると、どちらの薬を飲んでも、抗ADHD薬としての効果は発揮しています。しかしながら、両方の薬が、脳のどの部分にどう働きかけているのかを細かくみてみると作用が真逆である部分があるとわかりました。非常に面白いですね。
この研究成果にはどのような意味があるのでしょうか?
今回の研究により中枢刺激薬であるメチルフェニデート、非中枢刺激薬であるアトモキセチンでは、結果的に働きかける脳の部位への作用の仕方が異なることがわかりました。このことは、同じ作用を持つ薬であっても、その作用機序が異なることを示唆しています。
代表の松澤によれば、確かにどの薬が効くかは人によって違う印象があるので、そういった臨床的な印象を説明する根拠になるのではないかということでした。同じADHDの特性を持つ人であっても、その症状や本人の特性によって薬を選択することにより、より適した投薬を行うことができる可能性があるということですね。
今回もお読みいただきありがとうございました。
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発達特性研究所 (RIDC: Research Institute of Developmental Characteristics)
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