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「出荷量通常」でも薬局に届いていない―コンサータ限定出荷を医師の立場から考える

この記事は2026年8月2日までに公表された情報をもとにしています。供給状況は変わるため、最新情報は主治医・薬局・公的機関の案内をご確認ください。

ADHD治療薬コンサータ(一般名:メチルフェニデート塩酸塩徐放)錠の入手困難が続いています。

コンサータ錠の限定出荷は、2025年9月に始まり、2026年8月で11か月目に入りました。

報道で「薬局に在庫がなかった」「複数の薬局に問いあわせた」という話を聞きますし、私の外来では薬局から在庫を18,27,36の各錠ごとに聞き出しては、患者さんたちに状況に応じた服薬の節約と、ギリギリの錠数で回すことをご協力いただいています。

厚生労働省は2026年5月27日、医療機関や薬局で「必ずしも十分な量が入手できない状況」が生じていると認め、メーカーに増産などを要請しました。

その一方、メーカーの供給通知には「A『出荷量通常』」と書かれています。

『コンサータ®錠』の供給(限定出荷)に関するお知らせとお願い

出荷量通常なのに、なぜ手に入らないのか」。この疑問を解くには、Aという記号の意味と、実際の患者アクセスを分けて考える必要があります。

出荷量の状況と対応の状況の差を読み解く

厚生労働省の供給状況報告では、医薬品の状態を主に二つの軸で表します。

  • 出荷量の状況:A「出荷量通常」は、比較対象期間の出荷量または市場予測による予定出荷量の、おおむね90%以上110%未満を出荷している状態
  • 出荷対応の状況:②「限定出荷(自社の事情)」は、メーカーがすべての受注に対応できない状態

つまり、「出荷量通常」という言葉の意味は「患者さんが必要なだけ入手できている」ということではありません。メーカーが一定の基準に対してどの程度出荷したかを示す記号です。コンサータはAであると同時に②であり、この二つは制度上、矛盾しません。厚労省の用語定義でも、通常出荷と限定出荷は別々に定義されています。

「出荷量通常」だけを見れば、供給が正常化したと思いがちですが、実は違うということですね。足りている、という実感を得るにはAだけでなく②も一緒に見る必要があります。

9本の供給通知から分かること

pdfで入手可能な2025年11月11日から2026年7月6日までのメーカー供給通知9本を並べると、次のようになります。ちなみに規格はコンサータ錠の用量と考えてください。

対象月 表示 通知に書かれた内容
2025年11月 B・② 10月は各規格とも直近3か月平均の80%。11月は規格別に90〜100%
2025年12月 A・② 12月は全規格100%
2026年1月 A・② 市場予測による予定出荷量の90%以上110%未満
2026年2月 A・② 2025年9月以降の累積出荷量は、卸から医療機関への累積納入量の約95%
2026年3月 A・② 同じく約95%
2026年4月 A・② 同じく約97%
2026年5月 A・② 累積比率の記載がなくなる
2026年6月 A・② 市場在庫に「徐々に改善の兆し」。限定出荷は継続
2026年7月 A・② 同上。十分な在庫には至らず、限定出荷を継続

ここから、少なくとも三つのことが読み取れます。

第一に、2025年10月から12月にかけて、メーカーから卸への月次出荷量は実際に増えています。したがって、BからAへの変化を「ラベルだけが変わった」とするのは正確ではありません。ただし、いったん減った流通在庫は、月次出荷が元に戻っても直ちには回復しないということでしょう。需要が増えている状況なら、なおさらです。

第二に、2026年1月から比較基準が「直近3か月平均」ではなく、「市場予測による予定出荷量」に変わりました。これは制度上認められた基準ですが、予定出荷量の具体的な算定根拠は公開資料から分かりません。Aという評価が需要に照らして十分かどうかを、外部から検証しにくい点は残ります。

第三に、2〜4月に示された95%・97%は、患者需要の充足率ではありません。メーカーから卸への累積出荷量と、卸から医療機関への累積納入量を比較した数字です。卸在庫が取り崩されていた可能性を示しますが、これだけで「患者需要が何%満たされなかった」とは言えません。それでも、4月まで存在した定量情報が5月以降なくなったことは残念です。改善状況を判断できるよう、同じ指標を継続して公表してほしいと思います。

各月の通知は、日本ADHD学会の掲載ページからも確認できます。

公表資料から見た不足の状況

厚生労働省は5月27日の事務連絡で、コンサータについて、出荷量は維持されているものの、近年の需要増を受け、過剰な発注を抑える観点などから限定出荷になったと説明しました。そして医療機関と薬局には当面必要な量のみを購入すること、卸には患者数や在庫を踏まえて供給し、偏在が起きないよう配慮することを求めています。事務連絡の全文はこちらです。

今回確認した公表資料では、工場停止や原薬不足が原因とは説明されていません。一方で、需要が増えているのに、必要な患者へ十分に届く量を確保できていないことも明記されています。今回の問題は、単なる「製造量」だけでなく、増えた需要に供給と流通在庫が追いつくか、限られた在庫をどのように配分するかという問題でもあります。

ただし、「特定の薬局が買い占めた」「取引実績のない薬局が実際に不当に後回しにされた」と断定できる公開データはありません。厚労省が偏在防止を求めたことは事実ですが、個別の原因や責任を数量データなしに決めつけるべきではありません。

医師の立場から見た臨床への影響

メーカーは、限定出荷中は新規患者への使用と既存患者の用量変更を控え、残薬に応じた処方日数の調整や同効薬への変更を検討するよう求めています。この要請は、少なくとも2025年11月から2026年7月までの供給通知で続いています。

これは法令による処方禁止ではありませんので、最終的な治療判断は、医師が患者さんの状態と入手可能性を確認し、相談して行うことは出来ます。それでも現実には、新規導入を延期したり、症状に応じた用量調整が難しくなったりする患者さんがいます。供給の制約が治療選択に影響していることは否定できません。

きちんと念頭に置く必要があるのは、コンサータがすべてのADHD患者に必要なわけではなく、誰にとっても最良の薬というわけでは無いということです。しかし、安定した服用によって仕事、学業、家事、対人関係などの生活機能を保ってきた人にとっては、中断や変更が大きな負担になりえるでしょう。在庫が少ないという事実がもたらす不安は強いものがあります。

他の薬との置き換えという点においては、コンサータの持つ独特な薬理作用を考えると、即座に他の治療薬に置き換えられるわけではありません。

18歳未満に処方できる、リスデキサンフェタミン(商品名:ビバンセ)に関しては同じ中枢刺激薬でもあり、臨床的にも同等以上の効果を達成できる可能性が高いため、18歳未満の方には対応法があると言えるでしょう(副作用の出方によってビバンセを使用できない方がいるのは言うまでもありません)。

しかし、ビバンセを処方できない18歳以上の成人年齢の方にとっては、簡単には別な薬(アトモキセチンやグアンファシン)に置き換えられないのです。少し前に、アトモキセチンの先発品(ストラテラ)の供給終了がもたらした影響は少なからずありましたが、後発品があるため同じ状況とは言えません。

もちろん、薬物療法だけがADHD治療の全てではありません。環境調整、心理教育、認知行動療法的な支援など、個々の状況に応じた非薬物的支援も並行して考える必要もあれば、効果も望めるのですが、それでも薬の効果を切実に必要とする方々への代替にはなりません。

7月15日に始まった薬局間の譲渡・譲受

コンサータは依存・乱用リスクを踏まえ、登録された医師、医療機関、薬局、患者に限定した流通管理が行われています。従来は薬局間の譲渡・譲受が認められていませんでした。

2026年5月15日、発達障害当事者協会が薬局間調整の特例などを厚労省に要望し、6月には日本保険薬局協会も要望しました。上野厚生労働大臣は7月3日の会見で、患者団体からの要望などを踏まえて協議したと説明しています。大臣会見

そして7月15日の厚労省通知により、供給不足が解消されるまでの当分の間、登録薬局間での譲渡・譲受が可能になりました。相手が登録薬局であることを確認し、患者の調剤に当面必要な数量に限り、当日中にシステムへ報告し、向精神薬の帳簿にも記録することが条件です(薬局さんは大変ですね…)。

この措置により、ある登録薬局に在庫があり、別の登録薬局で不足している場合に、適正な記録を残しながら融通できる道が開かれました。ただし、在庫を新たに生み出す制度ではなく、必ず調達できることを保証するものでもありません。

海外の状況はどうなのか

実はADHD治療薬の不足は日本だけではありません。英国では2023年、複数の徐放性メチルフェニデート製剤、リスデキサンフェタミン、グアンファシンの供給不足について、製造上の問題と世界的需要増が原因とされた患者安全アラートが出ました。

豪州では2024〜2025年の不足時に、海外登録の徐放性メチルフェニデート製剤を一時的に供給できるようにし、2026年6月時点で大半の製品の供給が再開したとTGA(薬品・医薬品行政局)が報告しています。

他国での供給状況の改善を見ると、緊急輸入の増加など可能そうにも思えますが、そのあたり可能なのかは私にはわかりません。豪州のレポートの

To assist patients during the shortage, we approved the supply of multiple strengths of overseas-registered methylphenidate modified-release products under section 19A of the Therapeutic Goods Act 1989.

(この品不足の期間中、患者を支援するため、我々は1989年医療製品法第19A条に基づき、海外で登録されたメチルフェニデート徐放性製剤の複数の用量の供給を承認しました。)

という文言はなかなか心強く感じられますね。ただ、承認されている製品、代替品、市場規模、法制度は国ごとに違います。ちなみにですが、そもそもコンサータ錠は日本では生産されておらず、アメリカからの輸入です。

今後、公開してほしい情報

現時点の公表資料だけでは、次の点が分かりません。

  • 需要がいつ、どの程度増えたのか
  • 需要増の内訳は何か
  • 規格別・地域別の在庫や納入充足率はどうなっているのか(地域によって違うという話も聞いたことがあります)
  • 限定出荷を解除する客観的な条件は何か
  • 新規使用・用量変更の抑制要請を見直す条件は何か(正直必要な人には法令禁止でないものを絶対に守るというのは難しいとも言えますし)
  • 安定供給に戻る見通しはいつか

ストラテラ先発品の供給終了がコンサータ需要にどの程度影響したか、成人ADHDの診断増加がどの程度寄与したかも、公表資料からは判断できません。時系列上の関連はありそうですが、定量データ無しに憶測はしないほうがいいでしょう。

難しいでしょうが、こういった情報がせめて後々明らかになると嬉しいものです。

また、ADHD適正流通管理システムの情報は需要予測に利用できる気もするのですが…実際どうなのでしょうね。

いま服用している方へ

手元の残薬と次回受診日を早めに確認し、残りが底をつく前に、主治医と登録薬局に相談してください。現在は、薬局側で調整できる場合があります。

用量、服用間隔、中断に関しても主治医と相談してみてください。コンサータは効果の性質上、絶対的に自己判断してはいけない、という薬ではないと私は考えていますが、相談することを強くお勧めします。主治医側からも、お願いという形で供給量に合わせて提案があるかもしれません。その際は、納得の上で可能な範囲で協力してくだされば有難いです。今協力してくださっている患者さんには心から御礼申し上げます。

そして、くれぐれも他人の薬を使ったり譲ったりしないでください。入手できない可能性がある場合には、代替薬への変更を含め、必ず主治医と相談してください。

おわりに

2026年8月時点で確かなのは、メーカーが供給量を増やしている一方、限定出荷は続き、医療機関や薬局で十分な量を入手できない状況が生じ、新規使用や用量変更を控える要請も続いていることです。

末端にいる身としては公開情報を頼るしかありませんが、より情報量が増えることを望んでいます。今回のコンサータ錠の供給不足が将来の別な薬での教訓になりますことを願う次第です。

また、本音を申せば、このような状況であればせめて18歳の方にでもビバンセが処方できればいいのにと思ってしまいます…。1つ言っておけば、2026年6月8日、ビバンセに付されていた「他のADHD治療薬が効果不十分な場合にのみ使用する」という承認条件が解除されました。これにより、小児ADHDでは、患者の症状や併存症、期待される効果、副作用などを検討したうえで、他剤を先に使用せずビバンセを初回の薬物療法として選択することも制度上可能になりました。素晴らしい英断だと思います。

 

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