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【新薬】ビバンセ®︎について_その2

 

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目次

 

 

ビバンセとコンサータを比較してみる

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 こんにちは!株式会社ライデック学術広報のサハラです。今回は前回に引き続きADHDの新薬”ビバンセ®︎カプセル”について、比較されることが多いコンサータとの違いをデータを見ながら解説していきたいと思います。

 

 

 コンサータとビバンセは効能が似ていて、同じ中枢刺激薬(いわゆる覚醒剤)という分類になります。一般的には「コンサータ≒ビバンセ」のように語られ、以前の記事では「今までコンサータを使っていて、効果を感じていた人がわざわざビバンセを使う必要がない」と書きました。とはいえ、細かい部分で作用機序は異なりますし、その差を比較してみる価値はあります。

 

↓以前の記事はこちら

www.tsudanuma-ridc.com

 

< ビバンセの効果は、コンサータと同程度かそれ以上

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Photo by PhotoAC


 コンサータとの違いを一言でまとめると「効果は大きいが、副作用も比較的出やすい」のがビバンセだと言えます。海外の研究も含め、多くの研究者がコンサータとビバンセを比較して同じことを言っています。コンサータとの比較検証を行っている薬剤師のブログ記事がとても参考になります。

 

成人のAD/HDに関して、他のAD/HDに使用される薬と比較して、リスデキサンフェタミン(LDX; ビバンセカプセルの主成分)の効果が高かった。
参考:Efficacy, Acceptability, and Tolerability of Lisdexamfetamine, Mixed Amphetamine Salts, Methylphenidate, and Modafinil in the Treatment of Attention-Deficit Hyperactivity Disorder in Adults: A Systematic Review and Meta-analysis.

 

リスデキサンフェタミン(LDX; ビバンセカプセルの主成分)は、他のAD/HDに使用される薬と比較して、睡眠障害(39%)、食欲不振(65%)、易刺激性(60%)などを引き起こす可能性が他より高かった。
参考:Efficacy and safety of drugs for attention deficit hyperactivity disorder in children and adolescents: a network meta-analysis.

  

(ビバンセカプセルの特徴と、他のAD/HD治療薬との簡易比較. https://sanin-kosodate.net/lisdexamfetamine/より引用)

 

 

ビバンセカプセルとコンサータ錠の効果比較

 

2017年8月:10代ADHDに対するビバンセ/コンサータの効果比較

 

(ADHD-RS-Ⅳ増減量:対プラセボ比)

ビバンセカプセルを1日70mg服用する群:-8.5

コンサータ錠を1日72mg服用する群:-5.1

 

2015年6月:小児/青年におけるADHDに対する各種治療薬の効果

(対プラセボ比)

ザイバン錠(国内未承認):-0.32

ストラテラカプセル:-0.68

コンサータ錠:-0.75

ビバンセカプセル:-1.28

 

海外の使用報告を確認した感じですと、ビバンセカプセルの方が他薬と比較して有益である半面、副作用頻度も高いという報告を多いです。コンサータなどの既存の治療薬でも症状の改善が見られない場合などの第二選択肢として、使用される報告も見かけましたのでADHDに対する治療の幅が広がるのではないでしょうか。

 

ビバンセカプセルとコンサータ錠の比較データ

bit.ly

より一部改変引用)

 

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 上図は米国で行われた「13〜17歳のADHDの青少年に対するランダム化二重盲検プラセボ対照試験」の結果です。LDX (70 mg)とOROS-MPH (72 mg)を6週投与したところ、ADHD-RS-Ⅳのスコアがプラセボより有意に低下した、薬としての効果が十分であることが示されています。興味深いのは、ビバンセはコンサータと比べても有意なADHD症状の改善があったということです(P = 0.0013)。

 

 

 上記の米国の研究者らは、その結論において、”Superior”という言葉をもってビバンセがコンサータよりも効果が優れていた述べています。

LDX was superior to OROS-MPH in adolescents with ADHD in the forced-dose but not the flexible-dose study. Safety and tolerability for both medications was consistent with previous studies. These findings underscore the robust acute efficacy of both psychostimulant classes in treating adolescents with ADHD.

(Newcorn JH, et al. (2017) CNS drugs, 31(11), 999–1014.より)

 

  

 これだけ効果があるのですから、治療の選択肢としては第一選択肢に入ってきてもおかしくないと思うのですが…現状は第二選択肢未満となってしまっています。これには、前回の記事でも紹介した通り、依存の問題や厳しい流通管理、そして日本の精神科医が中枢刺激薬の処方に消極的であること等が起因しているのでしょう。

 

 

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 続いては副作用についてです。効果は大きいが、副作用も出やすいと聞くと、気になるのは副作用の方でしょう。具体的にはどういった副作用がどのくらいの割合で発生しているのか見ていきます。

 

<有害事象・副作用の発現頻度は高い>

 国内の臨床研究の結果によると、ビバンセを服薬した172例中169例(98.3%)が”有害事象あり”だったと報告されています。また、同試験において、172例中154例(89.5%)が”副作用あり”だったと報告されています(有害事象と副作用の違いについてはこちらを参考に)かなりの高い割合で発現していますので、「なんらかの有害事象はあるものだ」と思っていても良いかもしれません。

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 それから、心配なのは“重篤な有害事象”ですが、国内では臨床試験全体を通して、1例しか報告されていません。(その1例も虫垂炎で、薬との因果関係は不明)。中止になった例も、その事象の程度は全例で軽度から中等度だったようです。

 

 

 つまり、副作用はかなりの高確率で生じますが、だからといって深刻な問題には発展してないというのが現実です「コンサータで感じていた頭痛よりもビバンセで感じる頭痛の方が強い」という意見もあれば、「コンサータでは吐き気がすごかったけど、ビバンセの吐き気はそうでもない」という意見もあるでしょうから、ビバンセに特別警戒しすぎるほどではないように思います。

 

 

<気になる体重減少>

 ビバンセの副作用で『食欲減退』や『体重減少』の報告が多数あり、その点のみ個人的に副作用の強さが気になっています。他の中枢神経刺激薬でも体重減少がみられるのに、なぜビバンセの体重減少にだけ注目するかというと…この薬が過食症の治療に対して有効だとする報告があるからです。 

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 実は、アメリカやカナダでは、ビバンセは過食症にも医薬承認が下りています。シンシナティ大学のSusanらによる臨床(PhaseⅡ)試験によると、重度〜中等度の過食症の患者255人にLDX(30, 50, 70 mg/day)を8週間投与したところ、それぞれ-3.1, -4.9, -4.9 kgの体重変化がみられたといいます。同研究者らは、プラセボと比較してLDXに有意な体重減少の治療効果が認められたと結論付けています。

 

 

 -3kg〜-5kgと聞くと驚くような数字ですね。立派な痩せ薬として成立しています。もちろん、体重減少は過食の回数が減った結果なだけ(被験者の多くは元々BMIが25を超えるような欧米人)で、日本人の平均的な体型の人が5kgも体重が減ることはないと思いますが…。

 

 

 しかし、国内も含めた小児に対する長期投与試験における食欲減退の発現率はかなり高いので注意が必要です。海外の長期投与(PhaseⅣ)治験では、6〜17歳の小児312名を対象にLDXを104週にわたって投与した結果、食欲減退が54.1%、体重減少が20.1%もの人にみられています (SPD489-404)。日本で行われた長期投与試験では、6〜17歳の小児132名を対象にLDXを53週にわたって投与した結果、食欲減退が73.5%、体重減少が22.0%もの人にみられています

 

 

 コンサータと比べるとどうでしょうか。コンサータとビバンセの副作用の差に関して、海外実薬対照試験でデータが公表されています。 

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 上図では、コンサータでも同様の食欲減退、体重減少といった報告はあるものの、ビバンセはそれ以上に食欲減退、体重減少の副作用が出る可能性が高いことが分かります。平均−1.75 ± 2.07 kgの体重減少であり、直ちに健康に被害が出るほどのものではありませんが…育ち盛りの子どもにとって本来増えるはずの体重が増えない、食欲がないというのは保護者から見てとても心配ですよね。

 

 

 未だ処方数が少なく、国内における生の声は少ないものの、Twitterなんかだと”体重”や”食欲”に関するTweetが多いように感じます。

 

 

 やはり、「成長期なのに食欲が出ない」ことは気になっているご様子。元々痩せているお子さんへの投薬は慎重にならざるを得ません。

 

 

あえてビバンセを選ぶメリットについて

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Photo by PhotoAC


  コンサータとビバンセの大きな違いの一つとして、薬物動態(血中濃度の変化)の違いがあります。コンサータの添付文書を見ると、その薬物動態の項(16)において、” d -異性体は投与5~8時間後にCmaxを示し、約4時間のt1/2で消失し”とあります。一方で、ビバンセカプセルの添付文書を見ると、” d-アンフェタミンは投与後3~5時間でCmaxに達し、(中略)d-アンフェタミンのT1/2の算術平均値(標準偏差)は、9.65時間(1.48)であった”とあります。

 

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 つまり、コンサータは約9〜12時間でMAX時の半分の血中濃度になるのに対し、ビバンセは約12〜15時間で半分になります。1日1錠という部分は同じですが、薬が効いていると感じる時間帯は異なってくる可能性があります。

 

 

 実際にビバンセを処方している医師のブログでは、上述した作用時間の長さについて言及されています。

まず、ビバンセの方が効果時間の長さを実感される方が多いです。(説明文書には、コンサータ、ビバンセとも12時間との記載です。) 例えば、コンサータは7時台に内服した際、17〜18時には効果が薄らいでいるとの話がしばしば。(そのため、宿題は帰宅後すぐにやりましょう等の指導をします。)一方で、ビバンセは19時の塾の授業もしっかり聞ける、等の報告が多いです。(名駅さこうメンタルクリニック スタッフのブログ,

https://ameblo.jp/meiekisakou-mentalclinic/entry-12654361539.html

より引用)

 

 

 この違いは、ビバンセならではのメリットとなり得るのではないでしょうか。私もこれまでコンサータを服用中のADHD児の学習指導を行ってきましたが、夕方の19時や20時になると集中できなくなってくるという感想を聞いたことがあります。もしかしたら、塾などに通っている中高生のADHDのお子さんにとっては、服薬から12時間をすぎても薬効の残っているビバンセの方が役に立つ可能性があります

 

 

ビバンセのデメリットについて

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Photo by PhotoAC

 

 薬価がとても高いこれはデメリットかもしれません。ADHDの治療薬の価格は以前のブログ記事で紹介しています。

 

 

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こうしてみるとやはり上記2薬はやはり高いですね。価格は少しずつ下がってはいるのですが。 抗ADHD薬はストラテラ(一般名:アトモキセチン)以外はジェネリックが出ていませんしね。 ちなみに、ストラテラは発売から10年以上経っており、インチュニブはまだ小児用に発売してからも4年目(2017年発売)でしかないので、ジェネリックはまだ先ですね。そしてコンサータとビバンセは御存知の通り厳格な登録制が敷かれてますからジェネリックは出ないでしょう。

抗ADHD薬の価格を見てみる_2021年版 - RIDC_JPのブログ

 

 ただ、ビバンセは小児用の薬としてしか発売されてませんから、家庭や個人の経済的負担があまり問題になることはないかもしれません。もしこのまま成人向けに発売されたとすると、コンサータやインチュニブと比べても高いビバンセを使う際には自立支援医療制度などをうまく使う必要がありそうです。


  

 

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まとめ 

 ビバンセについて、コンサータと比較した結果をまとめます。

・ビバンセの効果は、コンサータと同程度かそれ以上の効果が期待できそう

・コンサータと比べても有害事象・副作用の発現頻度が高い

・体重減少や食欲減退の副作用は、コンサータ以上に気をつけておくべき

・薬物動態を考えると、ビバンセの方が夕方まで効果の持続を感じやすい

 

 まだまだ日本では処方が少ないビバンセですが、海外の使用実績を見る限り、ビバンセは『コンサータに並ぶ有効性の高い薬』だと言えそうです。一方で、副作用の発現頻度が高かったり、D-アンフェタミンが非常に高い依存性を持つ点には注意を払っていく必要がありそうです。

 

 以上、今日はビバンセについてその2でした。

 

 

前回の記事

www.tsudanuma-ridc.com

 

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