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量と質がADHDのワーキングメモリ発揮に影響する?!

こんにちは、広報見習いの吉良です!

夏真っ盛りの日が続いていますね…。体温を超える猛暑もあって身体が慣れるのも大変ですよね。

皆様もどうぞお体に気を付けてお過ごしください!

 

今回はADHDに関する論文を紹介します。

以前このブログでも、ADHDに関しては、以前治療薬に関する記事を書かせて頂きました。

よろしければそちらも是非ご覧ください!

www.tsudanuma-ridc.com

今回紹介するのはこの論文になります。

www.ncbi.nlm.nih.gov

ADHDの方のワーキングメモリに関するものです。

ワーキングメモリとは?

ADHDの不注意には「ワーキングメモリ」が関与していると言われています。

ワーキングメモリとは作動記憶とも呼ばれており、脳が情報を一時的に記憶しながら必要な情報を整理していく能力と定義されます。聴覚的情報と視覚的情報によるワーキングメモリがありますが、例えば電話番号を090-xxxx-*****と聞いて覚えてすぐにその番号にかける、とかさっと見た情報を人に伝えるときなどワーキングメモリの機能が使われています。日常的に非常に大事な能力と言えるでしょう。

ADHDはワーキングメモリが低い…?

ADHDの方ではワーキングメモリが低下していると言われています。しかし、実際はそうとも限りません。

下の図は、あるADHDの方2名の知能検査を行った結果です(仮想例です)。

症例Aでは作動記憶(=ワーキングメモリ)の点数が低く出ており、典型的といえます。

一方症例Bでは作動記憶の点数が非常に高く出ました。

あれ?ADHDの方でもワーキングメモリが高いのですね。

そこで検査を詳細に見ると、下位項目で算数の得点は高く、語音では得点が下がっていました。実はこのように、学習の分野や内容に対する興味の有無によって発揮されるワーキングメモリが大きく変化するということがADHDの特徴といえます。

代表に言わせると、あるときは高く、あるときは低く出てしまう、というように何かしら要因(体調や環境など)によって力の発揮がばらついてしまう、ということも特徴としてあるようです。

情報の質や量でワーキングメモリを発揮する力が異なる?

さて、ここからMukherjee氏の研究を紹介していきたいと思います。

研究にはADHDの方50名・定型発達者82名が参加し、グループ間で様々な比較が行われました。

研究では、ワーキングメモリは情報の「複雑さ」と「量」の2つに影響されるという仮説が立てられました。そして、ADHDの方と定型発達者それぞれに同じ課題を設定し、上で述べた2つの観点からどのような差があるのかが調べられました。

課題は、①一定の間隔で3枚or4枚の絵が順番に表示される(「量」で比較)②全ての絵が表示された後、最初からor最後から順番に絵の内容を答えていく(「複雑さ」で比較)③複数の絵が同時に表示され、その中から先程表示された絵を選んでいく、という流れでした。

最後から答えていくには、覚えた絵を頭の中で順番に並べ直して、それを思い浮かべたまま答えていかなければいけません!最初から答える事に比べると確かに複雑ですね…。

実験結果が図1になります。

複雑さ・量のいずれにおいても、より負荷がかかる程正解率が低下していました。その中でも、量の負荷が大きくなった(3→4枚に増えた)場合、定型発達者に比べてADHDの方ではより正解率の低下が顕著に見られました。

ADHDでのワーキングメモリは、情報の複雑さ・量のどちらにも影響を受けますが、特に量が増えるほど影響が大きくなるという事が示唆されました。

脳活動の違い

ワーキングメモリとその神経回路に関してはこれまでに沢山の研究が蓄積されています。ある先行研究では、先程取り上げた情報の複雑さや量を扱うのは、前頭葉や頭頂葉であるという説が提唱されました。別の研究では、ワーキングメモリには前頭葉-尾状核-小脳の3つがつながっているということが示唆されています。今回の研究でも、グループ間の脳の神経活動について、脳の機能的解析が可能なfMRIを用いて解析がなされました。課題に取り組む毎に参加者の脳を解析し、より課題が難しくなった際に活発になった領域やグループ間での活発化の違いが比較されました。

図2で、左は量での比較、右は複雑さでの比較になります。


脳の画像の中で色付けされている部分は負荷がかかった際に神経活動がより活発になった領域です。定型発達者とADHDの方で見比べてみると、概ね似たような領域が活発になったように見えますが、活発化していない部分もありますね。違いがありそうです。

そこで、グループ間で活発化の度合いが異なっている部分に焦点を当てて、更に詳細な画像解析が行われました。

その結果、図3に示すように、複雑さで比較した場合は右の小脳と左脳の舌上回と呼ばれる領域、量で比較した場合は右脳の島皮質と尾状核と呼ばれる領域での神経活動が、定型発達者とADHDの方での活発化度合に違いが見られました。

数値で示すと、図4のように、右の小脳・右の尾状核でそれぞれADHDの方では活発化の程度が弱くなっているという結果になりました。

1人1人に合う学習の方法を!

今回の研究では、ADHDとワーキングメモリの関係について調べられました。その結果、与えられた情報の「量」と「複雑さ」が上がるほど学習に影響が及び、特に量が増えると影響がより強くなるという事が分かりました。また脳の領域では、小脳や尾状核の神経活動がADHDの方では活発化が弱まるという結果が得られました。

脳領域に関しては、別の研究で述べられていた前頭葉-尾状核-小脳のつながりに近い発見であると思います。これらの解析を続けていくことで、ADHDの特性に関わる神経回路の解明や治療薬の開発にもつながるのではないかと期待されます。

私が注目したのは、量や複雑さが学習に影響するという点です。これら2つの要素に注意して学習方法を工夫することで、ADHDの方もより情報を処理しやすくなるのではないかと考えました。例えば計算の公式を学ぶ際には段階に分けて覚えていく、計算の量をできる限り少なくした解き方を覚えるといった方法があると思います。記事の前半で、ADHDの方も得意とする学習分野では高い能力を発揮するということを紹介しましたが、一人一人に対してより詳しく特性を分析し、取り組みやすい方法で学習を進めることが、成長には必要不可欠であると思います。

こどもの発達は、その人の人生を左右する非常に大事なステップであると思います。そのステップを着実に歩んでいけるよう、目の前の一人に向き合いながら相手に沿った学び方を模索する事が出来るようになれば良いですね!

今回もお読みいただきありがとうございました。

自分を知り、自分をかえていく