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中枢刺激薬と心血管副作用について

医学部5年、学術広報見習いの吉良(きら)です。

 

さて、今回紹介する内容は、ADHDの治療薬として用いられているメチルフェニデート(商品名:コンサータ)の血管系への影響に関する研究、ADHDと運動に関する研究です。

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以前、弊社のツイートでコンサータのような中枢刺激薬の心血管系への疑問を呈した方がおられましたが、一部その回答になるかと思います。今回はコンサータの服薬と心血管系への影響を調査した2つの論文をお伝えしようと思います。この話題の次回は代表が引き継ぐ予定です!

ちなみに同じく抗ADHD薬であるグアンファシン(商品名:インチュニブ)の心血管への副作用は血圧低下や徐脈ですが、それについては代表の個人ブログをご参考に。

 

neurophys11.hatenablog.com

 

メチルフェニデートは交感神経刺激薬

 

メチルフェニデートは基本的に2種類の神経伝達物質、ドパミンとノルアドレナリンの作用を増強するのですが、それにより交感神経活動を上げる方向に働き、心臓血管系に影響を与えます。どちらかといえば負荷をかける方向なので不整脈や高血圧を引き起こすことがありえます。

そこで今回はメチルフェニデートをはじめとした中枢刺激薬の服用と血管系への影響の関係を調査した2つの論文を見ていきたいと思います。最初にご紹介するのはやはりある程度は心血管系へのリスクを上げる方向での結果を出しているもので、2つ目は逆に血圧が下がったという報告です。

 

1.Shinらの研究(2016)

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

Shin JY et al. BMJ. 2016 May 31;353:i2550.

 

これは韓国の研究です。

2008年1月1日の時点でADHDの診断を受けメチルフェニデートの服用を開始しており、何らかの心血管系への副作用を経験した17歳以下の方1224名を対象に、2011年12月31日までの期間で観察が行われました。

副作用の発生を服用中or服用期間外に分け、不整脈・高血圧・心筋梗塞・虚血性脳卒中・心不全の4つでそれぞれ比較し、服用を開始してからの日数別でも比較を行うことで服用による副作用発生のリスクが調査されました。加えて、先天性心疾患の有無が発生に影響していたかも調査されました。

 

結果としては…

  • 不整脈の副作用発生頻度⇨服用中が服用期間外に比べて1.61倍
  • 頻度は服用後1-3日が最も高く(2.01倍)その後は徐々に低下
  • 心筋梗塞について、8-56日間で頻度は高くなったが全体として差は見られず
  • その他の項目では全体として差は見られず
  • また先天性心疾患を有している場合、心血管系イベントの発生頻度は3.49倍に上昇

この論文ではメチルフェニデートの服用によってこうした心血管系副作用のリスクが非服用時と比べて「相対的に」上昇する事が結論として述べられましたが、絶対的な数値上のリスクは依然として低いということに留意すべきでもあります。そもそもが頻度が低いので、リスクが多少上がっても人数としては少ないということです。17歳以下の心筋梗塞や不整脈は元々発症率が低く、直ちに服用は危険であるという結論にはなりませんね。

このあたり、今の新型コロナワクチンの18歳未満への接種時に発症リスクが上がる心筋炎との関係に近いかもしれません。起こった場合には適切な対処が必要ですが、絶対数の少なさを考えるとメリットを見込める可能性のほうが高いわけです。また、先天性心疾患を持つと心血管系へのメチルフェニデートによるリスクが上がることに関しては当然の結果だろうという印象を受けました。元々リスクが高い人にはとりわけ注意しながら使用を考えるべきです。

 

2.Conzelmannらの研究(2019)

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

Conzelmann A et al. Int J Psychiatry Clin Pract. 2019 Jun;23(2):157-159.

この研究はドイツから。

ADHDの診断を受けた1042人を対象に1998年から2010年まで観察が行われ、メチルフェニデートをはじめとした中枢刺激薬投与後の血圧・心拍数・BMIの変化が記録されました。

結果としては...

  • 収縮期血圧は服用によって低下(83.08 → 77.71 percentile, p<0.001)し、長期間の服用でより低下の度合いが強くなった
  • 拡張期血圧についても低下(89.86 → 83.37 percentile, p<0.001)し、長期間効果が持続する薬の服用で低下の度合いが強くなった
  • 心拍数については変化がなかった(79.26 → 79.04 /min, p=0.521)
  • BMIについては女子において若干の低下を示した(49.85 → 44.72 percentile, p=0.022)

*percentile(パーセンタイル)は、データを大きさ順に並べて100グループに区切り、小さい方からどの位置にあるかを表したものです。例えば100パーセンタイルは一番値が大きいグループ、50パーセンタイルは中央値のグループになります。血圧の場合、年齢によって一定の正常範囲が決められており、パーセンタイル値が83.08から77.71に落ちたということは、その年令において低い方の血圧グループに移動したわけです。

 

この論文では結論として中枢刺激薬の安全性を述べており、服用に伴う心血管系への悪影響にはどちらかといえば否定的です。ただ、本文中に言及はありませんでしたが、データを見ると服用前の血圧が中央値よりも高いグループにあり、そもそも血圧の高い集団が対象となってます。従って、単純にメチルフェニデートの服薬による影響が血圧を下げたわけではない可能性があるのは注意点でしょうか。

 

基本安全だが注意が必要

さて、2つの論文ではメチルフェニデートをはじめとした中枢刺激薬が心血管系に及ぼす影響について研究され、いずれも服用が直ちに重大な副作用を起こす危険性は低いとの結論に至っています。メチルフェニデートが持つADHDへの有効性を考えればかなり安全性は確保されているように感じられます。

 

日本では下記のように4種類(18歳以上には3種類)の薬が抗ADHD薬として認められています。

薬である以上、副作用があるのは当然。でも服薬するのはそのメリットがデメリットを上回るからです。それぞれの薬にそのメリット・デメリットに違いもあるので安全に使い分けがされる必要がありますね。

 

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