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精神疾患の特殊性について話してきました

代表です。

Blog記事を書くのはものすごく久しぶりになってしまいました…

今年は頻繁にとまではいかなくても改めて情報発信ができるように頑張りたいと思っています。

さて、今年に入り、ある就労移行支援事業者さんの依頼で、千葉県の「障害ピアサポート研修」の1コマを担当させてもらいました。お題は「サポーターの皆さんに知ってもらいたい精神科疾患について」です。

ちなみに、ピアサポートについては、千葉県のホームページから参照すると

障害者ピアサポーターについて/千葉県

 

障害のある人自身が、自らの体験に基づいて、他の障害のある人の相談相手となったり、同じ仲間として社会参加や地域での交流、問題の解決等を支援したりする活動のことを「ピアサポート」、ピアサポートを行う人たちのことを「ピアサポーター」といいます。

障害を持ちながらも生き生きと地域で活動しているピアサポーターの姿は、長期入院されている方の退院への不安を軽減することや、支援機関においては、当事者の目線に立った支援が行われる等の効果が期待されます。

ということです。ですから、今回の研修を聞いてくださっていたのは、そのようなピアサポート活動を担うべく勉強している、何らかの障害を抱えている皆さんでした。

 

一口に障害者と言っても、抱えている障害は人によって様々です。

私は今回その中でも、精神障害についての解説を担当したわけです。

今日はその中から、精神科や精神疾患の特殊性について私見ではありますが解説してみたいと思います。

精神科の特殊性

精神科が医学の他の科と違うかと言われればやはり違います。

「標準精神医学」(医学書院)によれば、精神医学は医学の一分野ではありながら、「人文学」としての側面を持つ点がまず違うと。その理由として精神医学は妄想やうつといった「抽象度の高い概念」を取り扱うが、それは自然科学では収まりが悪く、社会学、心理学、哲学などの人文系の学問が得意としている領域であると。またさらに日常診察のなかで、人生についての価値判断を取り扱う、といった面を指摘しています。

この著述は京都大学教授の村井俊哉先生によるのですが、確かに頷けます。そのために分かりづらいともされたり、一部の医学生からは「自分は精神科医になることしか考えてない」といった強烈な執着を持たれる一因でもある気がしますね。

さて、ここでは私なりに精神科、というか精神疾患の他の診療科の疾患との違いを3つ指摘したいと思います。

 

精神疾患の他科の疾患との違い

私が今回研修で紹介したのは、精神科というより精神疾患の他科の疾患との違いでした。

主に3点です。以下少し詳しく。

1.原因が不明な疾患が多い

2.非数値診断

3.除外診断である

 

1.原因が不明な疾患が多い

 精神疾患はほとんどが原因不明です。そう聞くと、え?うつ病はストレスじゃないの?みたいに考える方がいるかと思いますが、うつ病には何らかの特異的ストレスで発症させる原因になるものがあるわけではありません。ストレスは発症誘因の1つではあるでしょうが、どんなストレスに曝されてもうつ病を発症するとは限らないことを考えても、たった1つの原因に発症が帰着されるわけではないのは明らかです。

 精神疾患は実は今は原因別に分類しているわけではありません。様々な条件が揃ったらその疾患と診断する、それが現在の操作的診断基準と言われるDSMやICDといった診断基準となります。

 一方で、従来は、精神疾患を大まかに、外因性、心因性、内因性と原因別に分けて考えていました。外因性は脳に直接侵襲を及ぼすような身体的病因を持つ精神疾患です。例えば感染症から脳症を発する、梅毒やヘルペス脳炎、外傷から脳挫傷を来す、内分泌性疾患(甲状腺機能異常、糖尿病、ウイルソン病など)からの症状性精神病などがこれに当たります。心因性は性格や環境からのストレスが精神疾患を生じさせる、というものです。内因性は、外因でも無ければ心因でもなく、つまりは原因不明だが、遺伝的要因が関係しているだろうと考えられたもので、疾患としては統合失調症と双極性障害が2大内因性疾患とされていました。

 私が医師になった2000年当時は、ちょうどそういった従来からの診断基準で精神疾患を捉えていた先輩諸氏に、新しく出てきた操作性診断基準による精神疾患分類を習う、という時期でしたね。

 さて、現在は、操作的手法によって診断し、原因別には診断しないと書きました。現代的な見方によれば、実際どの疾患にも遺伝的要因は関係していそうです。例え外因的な要因があろうと、また心因として決定的(に見える)ものがあろうと、疾患発症には多かれ少なかれ遺伝的要因は関係していると考えます。

 ではどの疾患にどの遺伝的要因が、直接の発症に寄与する遺伝子がわかっているのか?と言えば、それがわかっていないのです。散々遺伝的要因が、と言っといてそれかよ、と言われそうですが、実際そうなのです。本当に一部の精神疾患だけがどの遺伝子が責任ある遺伝子だと言えるのですが(例えばレット症候群)、圧倒的に多くの疾患が、その発症に有力な遺伝子さえわかっていない、と言えます。まあそのあたりは、隠し疾患遺伝子を研究している研究者から反論もありそうですが、私自身遺伝子研究に従事した時期があって、つくづく「精神疾患の原因ってわかるときあるんだろうか??」とその件に関しては絶望感を感じたものです。

 いずれにしても、現状、精神疾患ないしは精神科診断の原因はわかっていないものが大部分、と認識していただければ間違いはありません。遺伝的要因が関係しているのは確かですが、その関係の仕方もある意味今は混沌としています。どれだけ分かりづらいかは以前blogにも書きました。

www.tsudanuma-ridc.com

2.非数値診断

 精神科に来た医学部学生が、初めて精神科医の診察を見学した時に驚愕するのが、そこに何の客観的数値も入り込んでいないことがある、ということです。ゼロか、といえば、例えばうつ病の診断基準を見れば、幾つかの症状の組み合わせが2週間以上続いている、という記述がありますから、ゼロではないですね。でも他の疾患と比較した時に、圧倒的に「曖昧で」「抽象的な」、数値判断とはかけ離れた主観的叙述を基準にして診断を下しているのです。

 例えば身体疾患の代表として心筋梗塞を見てみましょう。

このように、基準は客観的です。状況によってすべての症状や所見が揃わない時期はあるのですが、精神疾患の比ではないでしょう。

ねずみさんの絵の意味ですが、モデル動物としてネズミはとても優秀なのですが、残念ながら彼らが考えていることはわかりませんので、妄想や幻覚を抱き、それを表明しないとわからない統合失調症のモデルとして果たしてふさわしいのか?という疑問は常に付きまとうと言いたいためにつけました。

 ねずみさんの思考が視覚化されるともしかしたら一気に研究も進むかもしれませんね。

3.除外診断である

 最後に、除外診断であることを原則としていることをお伝えしたいのです。

 つまり、今目の前に展開されている精神症状は、本当に精神疾患由来なのか、ということです。まあ先に述べた、内分泌性疾患や感染症が精神症状を引き起こすことを考えれば、そういった原因が特定できる精神疾患を見逃さずにしっかり除外した上で、一般的な精神疾患の診断を下している、ということです。

 日常的に一番多いのは認知症の鑑別でしょうか。アルツハイマー型認知症を診断すると一口に言っても、実は様々な認知症を引き起こす疾患を可能な限り除外してから診断しているのです。アルツハイマー型認知症は神経疾患じゃないか?という疑問がある人もいるかもしれませんが、精神症状はありますし、実際診ていますので、そこはご勘弁を。

 認知症を診た時に除外(鑑別)すべき疾患はこの通りです。

色を付けたのはいわゆる四大認知症と呼ばれるものです。

 もっとも、誰にでも上記全疾患の可能性があるわけではないので、明らかに違うだろうものをささっと除外して、もしくはあまりにレアな疾患は頭にも上らない中で、アルツハイバー型認知症であれば、似た症状をきたしやすい疾患に罹っていないことを問診や検査データから除外していくわけです。例えば、甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏症、正常圧水頭症、そしてうつ病など。認知症かと思いきや、ADHD特性の強い人がたまたま何かの要因で調子悪い時に親族がアルツハイマー型認知症かと心配してた、なんてこともありました。

 罹る医師、罹る医師にあんたは精神疾患と言われながらも病気が進行し、ようやくわかった体験を綴ったアメリカ女性、スザンナ・キャラハンのことは前に個人blogに書いたことがありますが、精神疾患というのは時に診断が難しかったり、安易に誤診に至ってしまうこともあり、除外診断的思考が決定的に重要なのです。

neurophys11.hatenablog.com

 

以上、今日は精神疾患の特殊性について記してみました。

精神疾患と原因の話、は特に尽きない話題でもありますので、また取り上げるかもしれません。

 

自分を知り、自分をかえていく