RIDC_JPのブログ

最新の医学研究情報を「正しく」かつ「わかりやすく」伝えるためのブログ

株式会社ライデック(発達特性研究所)の公式ブログ

コロナ禍の中...ワクチンについて、そしてインフルワクチンは受けましょう

代表です。

f:id:RIDC_JP:20200628131556j:plain

新型コロナウイルスの話題は依然として世界を席巻しています。
それは当然というもので、現在でも感染者は増え続けているので、注意は必要なわけです。

f:id:RIDC_JP:20200621210716p:plain


そして、ワクチンについての報道も見ない日は無い、というところですね。
新型コロナウイルスに対してのワクチンは日本も含めて全世界で精力的に開発中ですが、早く開発されるのを望むばかりです。


「ワクチンがあること」で社会はどれだけ安心できるか、は今回私たちの多くが身に沁みたのではないでしょうか。

今日はワクチンについての話と、時折見受けられるワクチンと自閉症についてです。

端的に言えば、今使われているワクチンは受けておきましょう、ということにはなります。


感染症は数多ありますが、その中で特に人に対して有害な感染症に対しては、ワクチンが切望されていますし、ワクチンによって克服できた、できるはずの病気も今では随分と数が増えました。
最たるものは、人間の力で撲滅できた天然痘で、あのジェンナーさんが子どもの腕に牛痘(牛の天然痘)を接種している絵を見たことある人は多いと思います。天然痘はちょっと調べてみればわかりますが、本当に本当に根絶されて良かったと思う感染症です。

その他に、麻疹、風疹、水痘(水ぼうそう)、百日咳、おたふくにポリオ...と多くの感染症に今やワクチンがあるため、罹らずに済ませることができます。

例えばおたふく風邪で知られる流行性耳下腺炎ですが、合併症として感音性難聴は有名ですし、思春期以降の感染では精巣炎・卵巣炎もありますから、罹らないに越したことはないのです。


リンク先は0歳児のワクチンスケジュールが載っていますが、種類が増えたのでスケジューリングもなかなか大変です。*1
www.wakuchin.net



ワクチンは自閉症スペクトラムの原因ではないです

さて、そんな感染症を防ぐためのワクチン、時折発達障害、ことに自閉症の原因とあげつらわれることがあります。実際にはワクチンが原因で自閉症スペクトラムが起こることが示されたことはなく、信頼できる研究結果は否定的であり、ワクチンを受けないデメリットは大変大きな問題になっている、のが実情です。例えば先進国ではアメリカで麻疹の流行がワクチンを打たなかった人の中で流行したりしています。

slownews.com



とりわけ、ワクチンと自閉症の問題に関しては、前回のblogでも著者のサハラが言及していましたが、ある嘘論文が契機になって大騒ぎに発展したことがありました。その論文撤回の経緯については下記リンクをどうぞ。

transact.seesaa.net


また、ワクチンが自閉症(スペクトラム)の原因ではないということについては以前私が個人ブログに書いてみており、是非読んでいただければ幸いです。

neurophys11.hatenablog.com


ただ、それでもワクチンは反対派の方々も多く、定期的に様々な疾患の原因になるという説が出てきます。なぜなんだろう?ということに関しても考えてみたことがあります。
neurophys11.hatenablog.com

大雑把に私は大きく2つ要因があるかと思います。

1.「自閉症スペクトラム(ASD)が増えている」要因として理由づけしやすい
ASDの診断時期、は様々ですが、診断に理不尽を感じる方(ことに親)は一定数いらっしゃいます。それ自体は当たり前のことです。ただ、診断の時期までに何かやったりしたことが悪いんじゃないかという原因を探し求めたときに、わざわざ病原体(に近いもの)を身体に入れる、余計なものと感じられるワクチンが標的になりやすいのでしょう。
恐らくちょうどワクチンを沢山打つ時期と、問題として顕在化してくる時期がある程度一致もしているので、あたかも関係があるのではないかと思えてしまうのではと。人は理不尽を感じた際に、何か理由が欲しいものです。そういった心理にワクチン=自閉症説はとても説得力を持ちうるのではないでしょうか。


2.医療不信、製薬会社不信

目の前の医師、医師会、厚生労働省や政府がいうことは全て権威の後ろ盾のあるもので、大本営発表みたいなもの、そこには製薬会社と結託した利益誘導や、嘘、ごまかしが溢れていて、大衆が知ってはまずいことは隠されている、と疑っておられる方がいます。

反対派の方にとっては、ワクチンという余計な作業(と感じられるもの)が一大産業になっていて、製薬会社や医者が大儲けする軍産複合体ならぬ医産複合体ができている気がするし、そういった構造を守るために国がワクチンを推奨しているのではと疑わしい...そんな気持ちもあるのではないでしょうか。

一旦そういう考えを抱くと、ワクチン肯定的な意見の背後には陰謀を感じてしまいがちですが、1つ考えてほしいことがあります。それは、医者だって自分の子供達にせっせとワクチン接種をしていることです。我が子に危険だと感じていたらさすがに声をあげます


尚、最近もワクチンとASDについての関係についての研究はされています。
その中で信頼性が高いだろう1つの結果はこちらです。

pediatrics.aappublications.org

2018年のPediatrics誌に載った、アメリカ人妊娠女性に対する3種混合ワクチン(Tdap:百日咳、破傷風、ジフテリア)がASD発症に関わるかというものです。
2011年1月から2014年12月に生まれた子供たちを2017年6月までフォローして、ASD診断を調べたところ、合計81,993人の解析対象者からASD診断は1341人(1.6%)出現し、ワクチン接種母からは1000人あたり3.78人、ワクチン非接種母からは1000人あたり4.5人、と両群に統計的有意差はありませんでした(数字だけならワクチン接種者のほうが少ない)。妊娠中の三種混合ワクチンは、子どものASD率を上げることはなかったのです。
ちなみに、ワクチン接種者は、アジア系、太平洋諸島系の方が多く、インフルエンザワクチンを打っている方も多かったようです。


今年は特にインフルエンザワクチンを受けましょう

さて、今でも多くの方の関心は新型コロナウイルスにあるわけですが、毎年話題になるインフルエンザが新型コロナウイルスに遠慮して流行しない、わけではありません。
きっと今度のシーズンもインフルエンザが流行し、おまけに新型コロナウイルスまで流行してしまう可能性があるわけです。


そして、現状でそのうちの1つは感染予防対策としてワクチンが確立されているのです。
世界保健機関(WHO)のサイトを見ると、既に次のシーズン(2020-21)の推奨ワクチンが発表されています。*2

Recommended composition of influenza virus vaccines for use in the 2020 - 2021 northern hemisphere influenza season


ですから、是非インフルエンザワクチンを今年は(も)接種して、心配な要因をせめて1つは減らしていきたいところです。

もちろん、効果は100%ではありません。
感染可能性をおよそ50-60%減らしますが、それは人によっては少ない!と感じる値でしょうし、「去年打ったのに罹った」人は余計に打ちたくない気持ちが働くかもしれません。

しかしそれでもインフルエンザワクチンが感染予防に役立つのは確かであり、公衆衛生的に見れば(社会としてみると、と言い換えてもいいです)大きな役割を担っています。

是非、自分だけでなく周りの人、そして日本のためにインフルエンザワクチンを是非受けてください。


その上で、今回の新型コロナウイルス騒動で身につけた新しい習慣、つまり頻回の手洗い、3密を避ける、はインフルエンザ予防としても同じく有用です。
ワクチンを打つ方も、何かしらの理由で打てない方も、是非感染予防行動はしてくださいませ。

インフルエンザは話題にならないと大したことない、と思いがちですが、毎年数千人規模で亡くなる方がいる大変な感染症です。ワクチン接種をして、1つでもリスクを減らす行動をしていきましょう。


最後に、全国におけるインフルエンザの患者発生数を比較してみましょう。
去年の流行期(2018-19年)と今年の流行期(2019-20年)を比べると、今年は流行は早かったですが、全体に数は抑えられました。ピークが早かったことを考えると、今年はワクチンがよく効いたこと、それに後半は新型コロナウイルス感染の発生により皆が外出を自粛、手洗いし、3密を避けたことでインフルエンザの患者数も抑えられたのではないでしょうか。
ワクチン接種率は大体50%程度で推移しているようなので、その率が今年上がれば、更に流行は抑えられると期待したいところです。

f:id:RIDC_JP:20200628130921p:plain


陽だまりの樹 手塚治虫文庫全集(1)

陽だまりの樹 手塚治虫文庫全集(1)

  • 作者:手塚治虫
  • 発売日: 2015/10/30
  • メディア: Kindle版

私がワクチンといって思い出すのはまずこれです。
手塚治虫の曽祖父で江戸末期〜幕末に活躍した(?)手塚良庵医師の生涯と、彼の人生に絡んだ、幕府に忠義を誓う武士、伊武谷万二郎の生き様が描かれていく物語ですが、種痘を日本に広める苦労が出てきます。

種痘を広めた大貢献者は沢山の優秀な門徒(福沢諭吉とか大村益次郎など)を輩出し、手塚の支障でもあった私塾(適塾)の医師緒方洪庵です。当時の当時の人々に当然ながらワクチンの発想などはなく、種痘を広める苦労たるや大変なものがありました。



雪の花 (新潮文庫)

雪の花 (新潮文庫)

  • 作者:昭, 吉村
  • 発売日: 1988/04/28
  • メディア: 文庫

福井藩の医師笠原良策は、天然痘の流行に何の力も持たない漢方医学に失望を覚え、当時の西洋医学、蘭学を勉強する中で種痘を知ります。知った良策の行動力は凄まじく、京都の蘭方医師たちの協力を仰ぎながらついに種痘(天然痘感染患者由来のかさぶた)を得、その後良策が福井藩に持ち込むのです。当時の京都〜福井の難路越えや、無理解から来る種痘普及の困難など、最終的に種痘が藩内に根付くまでの苦労は涙なくしては読めません。

*1:今新型コロナウイルスへの効果が取りざたされている結核予防ワクチンBCGも0歳で打ってます。BCGは子供たち用のワクチンなのでお願いですから大人は打ってくれと言わないでくださいね。

*2:WHOはインフルエンザ予防にワクチンを強く推奨しています→ https://www.who.int/influenza/vaccines/virus/recommendations/2020-21_north/en/

自分を知り、自分をかえていく