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「外在化」をうまく使おうー自分を責めずに問題と向き合うために

こんにちは。スタッフの田汲です。

秋も深まり、朝晩の冷え込みが厳しくなってきましたね。

私は冬になると鍋がより美味しく感じられるのですが、みなさんは何鍋がお好きでしょうか。

 

 

今日のテーマは、“外在化”です。

 

 

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メンタルに関するセルフケアを学んできた方にとっては、なんとなく聞いたことのあるワードかもしれません。

外在化は、自分の症状や問題との向き合うことが少しだけ楽になる可能性を持っています。

今回は、二つの心理療法を(私の主観で)取り上げ、外在化がもたらすものについて考えたいと思います。

いつもながら心理の色が強く、やや抽象的な表現も多い記事となっております。どうか、イメージをフルに働かせながら読んでいただけると幸いです。

 

認知行動療法における外在化

自分の悩みや症状について語るとき、多くの人はその症状を自分の中にあるもの・自分と一体化した問題として捉え、語ります。

一方で、外在化とは、治療対象者(以下クライエントと呼びます)の抱える問題や症状を、“自分の内面と切り離して扱う”ことを指します。 

 

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外在化するための手法は多岐に渡り、臨床心理学の学問的立場によってもその方法は異なります。

ここでは、まず、認知行動療法にみられる外在化について考えてみたいと思います。

 

 

認知行動療法では、治療者(以下セラピストと呼びます)は、“問題の解決にあたる共同者”という立場をとります。

セラピストとクライエントは、問題の構造やプロセスについて仮説を立て、技法を用いて介入し、結果を検証する“共同作業”を繰り返します。

 

例えば、「いろいろな場面で不安になる」と訴えるクライエントがいたとします。

認知行動療法の場合、まずは不安になる状況を整理し、その時に何が起こっているのか、認知行動療法の理論をもとに分析を始めます。

 

整理した結果、このクライエントは「やったことのない仕事を頼まれた時」が強い不安を感じる状況のようでした。

そこで、例えばどんな感情が起こるのか(焦り、不安など)、身体はどんな反応をするか(動悸、発汗など)、その時どんな行動をとるのか(仕事を先延ばしにする)、自分にどんな認知が働いているのか(「絶対に失敗してはいけない」など)、クライエントとセラピストとで客観的に整理します。

整理することで、「失敗しちゃいけないという認知が私を苦しめている」だとか、「先延ばしにするから不安がより強くなる」というように、不安のメカニズムを客観的に捉えられるようになります。

「不安になってしまう私はダメな人」ではなく、「私はこんな認知や行動によって苦しめられている」という前提で話を進めていくことが可能になるんですね。

そうすると、ではあなたを苦しめるその認知(もしくは行動)に働きかけてみましょう、面接の外でもやってみて振り返りましょうね、というように介入方法を試す段階に入っていきます。

 

あくまで認知行動療法の治療のうちの一例ですが、問題について共有し、客観的に問題を吟味していく過程を、なんとなくイメージしていただけたでしょうか。

また、認知行動療法は、問題の整理から介入までの多くの場面でワークを用います。

書き出す、そしてそれらをセラピストとクライエントで眺めるという構造も、外在化を促します。

認知行動療法は、問題の外在化を基盤として機能しているとも言えるかもしれませんね。

 

ちなみに、ライデックのプログラムの中で用いているこのユガミンも、認知の歪みを外在化した存在といえます。

 

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 『マイナス思考と上手につきあう 認知療法トレーニング・ブック』竹田伸也(2012)より引用

 

 

ナラティヴ・セラピーにおける外在化

先に述べたように、外在化が技法として用いられるのは、認知行動療法に限りません。

もうひとつ、 “ナラティヴ・セラピー”という心理療法における外在化をご紹介します。

 

ナラティヴ・セラピーとは、社会構成主義を理論的背景として、その人の中にある物語(=ナラティヴ)に着目する心理療法です。

その人を支配している体験を再構築し、その人が抱える問題を支持・維持しないストーリーを生み出すことが、自己回復に向かうと考えられています。

 

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 例えば、あるクライエントが「最近イライラが止まらなくて、友達に嫌な態度をとってしまいます。昔からイライラしやすくて、よく母親にも当たっていました。昔からそうなので、私はきっとなにかの病気なんだと思います」と語るとします。

このように、“出来事が、時間軸上で連続して繋げられ、プロットになったもの”をストーリーと呼びます。体験に対する解釈がストーリーを作ります。

 

ナラティヴ・セラピーでは、物語をよく知る人はクライエントで、クライエントの話にセラピストが耳を傾けながら物語が再構築されていきます。

その中で、“人を問題として見るのではなく、問題が問題である”という前提で、その人のアイデンティティから問題を切り離す方向で話を聞き、言葉を返します。

先程のクライエントに対してであれば、「イライラが、あなたに嫌な態度をとらせるんですね」というようにです。

クライエント主体のもと、問題に対して擬人化したり、名前をつけたりすることもあります。

 

こうすることで、感情や対人関係の問題、文化的・社会的な影響などが外在化されますが、ナラティヴ・セラピーの外在化において大事なことは、その人の文脈をしっかり取り上げることです。

先程のクライエントが、もし父親から暴力をふるわれているとしたら、どうでしょうか。

クライエントに嫌な態度をとらせている問題を、本人の「イライラ」と同定してしまうことで、暴力の文脈が無視されかねません。

 

ナラティヴ・セラピーにおける外在化は、問題を問題として扱うために、何が“その人にとっての問題”であるのかに注目して吟味する、一連の作業とも考えられます。

 

 

外在化によって何がもたらされるのか?

 今回は、私が恣意的に「認知行動療法」と「ナラティヴ・セラピー」を取り上げ、その心理療法における外在化について紹介してきました。

では、結局のところ、外在化を使うことで、どんな良いことがあるのでしょう。

 

1つ目に、心理的に距離を置けるということが挙げられます。

問題と自分自身とを結びつけて「私が悪い」と考えることは、自責感にかられたり、自己肯定感を損ねることに繋がりかねません。

しかし、“問題に困らされている”と捉えることで、むやみに自分の内面を否定することなく、問題と客観的に向き合うことを促します。

 

そこから2つ目の、客観性を担保しながら問題を分析できる、という利点に繋がります。

心理的な距離をとって客観的に問題を見ることで、セラピストだけでなく、問題を抱える本人も問題の分析者になることができます。

分析できれば、もちろんその後の対処に繋がるので、これは何よりの利点ですよね。

 

最後に、ナラティヴ・セラピーからは、外在化の過程で、問題が本人にとっての問題たる文脈を理解できる、ということが挙げられます。

先程の例で言えば、イライラが問題なのか、それとも暴力が問題なのか、それとも他に本人を苦しめる要因があるのか、何が“本人にとって”の問題であるのかを外在化によって理解することができます。 

しかし、本人を取り巻く状況や文化や環境を含め、何が問題たるのかを精査することは、ナラティヴ・セラピーに限らず重要なアセスメントです。

私見ではありますが、自分にとって何が問題であるのかを本人が整理し、自覚することは、問題と向き合うスタートラインに立つことにもなると考えます。

 

 

今日は、外在化を取り入れることで、問題と距離をとって付き合えるかもしれない、ということをお話しました。

皆さんも、「ああ、私はこんなダメなところがあって、あんなダメなところもあって…」と落ち込んでしまう日があるのではないでしょうか。

そんな時は、一度問題を外において、それに困らされている自分をイメージしてみてください。

そして、「こいつ(問題)とどう付き合おうか?」「こいつって、本当に自分を困らせている真犯人なのだろうか?」なんて風に、一度見方を変えてみたら…どうなるでしょうか。

少し楽な気持ちで問題について考えられたり、理性的な分析モードになれる人もいるかもしれません。

ぜひ一度、試してみてくださいね。

 

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