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発達障害の診断、そして検査の実際 〜その3〜

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目次

 

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【発達障害に特化した診断・評価とは

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こんにちは!株式会社ライデック 学術広報のサハラです。

今回は”診断、検査の実際シリーズ”の第3弾(最終回)になります。

 

前回の記事では、発達障害領域でよく使用されるアセスメントツール5種を紹介しました。

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ここでは、この中の「発達障害検査」をさらに疾患ごとに細かくみていこうと思います。

 

  • 発達障害(ASD/ADHD/SLD)検査

    自閉スペクトラム症(ASD)に特化したスクリーニング・アセスメントツール

    注意欠如・多動症(ADHD)に特化したスクリーニング・アセスメントツール

    限局性学習症(SLD)に特化したスクリーニング・アセスメントツール

 

特に代表的な検査をピックアップし、簡単にまとめてご紹介していこうと思います!

 

ASDのスクリーニング・アセスメント

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ASDは”スクリーニング”が充実している

ASDはADHDやLDよりも「早い時期」にその特性が出るため、診断は早いですよね。

それは、早期に介入を始めることで長期的にも予後が良くなるという報告があるからです。

早期に「ASD」を見つけるためのスクリーニングツールの開発が非常に進んでいます

 

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これらはスクリーニングツールなので、ASDの診断とは直接結びつきません

その代わり、専門機関でなくても実施でき、検査時間も短く、費用も安いといったメリットがあります。

基本的には、子どもの普段の様子を良く見ている保護者(養育者)が質問に回答するものになります。

 

 

ASDの診断・評価のゴールド・スタンダード

DSMやICDで定められたASDの診断基準は非常に曖昧です。

できるだけ診断を正確にするために、診断を補助する検査ツールが開発されています。

これによって、熟練した精神科医以外でも診断精度を高められるようになってきました

 

ここでは、ゴールド・スタンダードとされる2種類のアセスメントツールを紹介します。

これらの検査の対象となるのは、既にスクリーニングで”ASDが疑われる”とされた者です。 

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ADI-Rは、子どもの幼い頃のASD症状(過去の行動特性)を養育者に聞いていくというもの。

ADOS-2は、対象者と実際に話をしながら検査者が現在の行動特性を見ていくというもの。

両者は相補的な役割を果たしていると言えます。

 

ただ、スクリーニングと違って、アセスメントには負担が掛かります

具体的には、ADI-Rが1時間半〜2時間前後、ADOS-2が1時間〜1時間半前後です。

また、費用もそれなりに掛かることが通例です。現在保険診療の中に点数化されて組み入れられることが検討中のようですが、まだ時間がかかるかもしれません。

それでも、主観を排して客観的にASDであることを納得したい、診断されるためには、これら2つの検査の少なくてもどちらかは受けた方が良いと私は思っています。

 

どのように本人とかかわっていくか

どんなサポートがあれば本人の力を伸ばせるか

 

これからの生活を考えていく上で、アセスメントツールの結果は非常に役立ちます

 

 

ADHDのスクリーニング・アセスメント 

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ADHDの心理検査は”補助的ツール”

ADHDは以前の記事でも言った通り、診断の境界線が非常に曖昧です。

”多動性・不注意・衝動性”という中核症状が長期間続いていることを見るためには、

クリニックでの現症に加えて、過去の生育発達歴を遡って検討しなければなりません。

 

ADHDの心理検査はあくまで補助的な存在

 

だと思っておいた方が良いと思います。

専門医の問診による主観的評価に加え、検査による客観的評価が診断情報を補完します。

診断の基準としては、問診のウェイトが大きく、心理検査は必須ではない印象を受けます。 

 

ADHDの代表的な心理検査

ADHDの心理検査は”質問に回答する”シンプルなものが多いです。

ここでは、ADHDの代表的な検査を3つ紹介します。

これらは、年齢や調べたい項目による使い分けです

 

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※上記は全て質問紙形式の検査ですが、回答者の自己・他者認識に左右されるため、

結果は「良く見せよう」と思えば良くできるものだと知っておかなければなりません

保護者と教師で大きく認識が違う場合などは、改めて診断名を検討することになります。

 

この他にMSPAというものがありますが、こちらは他の発達の特性まで多面的に検査できます

MSPA(Multi-dimensional Scale for PDD and ADHD)とは

著者  京都大学 船曳 康子

 

 京都大学の船曳康子先生を中心に開発された、発達障害の特性の程度と要支援度の評価尺度です。
 MSPAでは、発達障害の特性について、「コミュニケーション」「集団適応力」「共感性」「こだわり」「感覚」「反復運動」「粗大運動」「微細協調運動」「不注意」「多動性」「衝動性」「睡眠リズム」「学習」「言語発達歴」の項目から多面的に評価します。各項目は当事者や保護者からの生活歴の聴取を通して評価し、各項目での結果を特性チャートにまとめることで、発達障害の特性や支援が必要なポイントを視覚的にとらえられるようになっています。
 また、2016年4月1日より保険収載(D285 3)となり、今後医療、療育への活用が期待されます。

 (図.MSPAのレーダーチャート)

(発達障害の特性別評価法(MSPA:エムスパ)|京都国際社会福祉センター)

 

SLDのスクリーニング・アセスメント

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ASDの検査ツールはそれなりに揃っていて、ADHDもそれなりにあると紹介してきました。

それでは、限局性学習障害(ここではLDとします)はどうかというと…

 

LDの検査はほとんど普及していない

 

というのが現状だと思われます。

検査ツール、評価尺度があるにはあるのですが…

「文字を読むのが苦手」ということが分かっても

 

単なる学習不足なのか、そもそも知的能力不足なのか、

注意力不足で行を読み飛ばしているのか、眼球運動が苦手で行を追えないのか、

はたまた音を処理する脳機能障害なのか判断するのは容易ではありません。

発達障害の中でも最も気づかれにくいのがLD特性ではないでしょうか。

  

 

知能検査によるスクリーニング

「周りの子よりも文字の読み書きが苦手」という部分は学業不振という形で現れます。

そういった意味で一次スクリーニングは自然と学校で行われていることになります。

それでも、LDのスクリーニング検査には初めに知能検査が必ず入ってきます。 

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知能検査は学習障害であることを見つけるためというより、

知的障害でないことを確認するためという意味合いが強いです。

「知能の低さでは説明できない学習困難」が学習障害なので、

知能検査の結果は学習障害には直接的には関係ないです。

 

筑波大の宇野彰氏は、”限局性学習障害(症)のアセスメント”の論文で

教育界と医学界で知能指数の扱いが少し異なるということを述べています。

  • 教育界では知能が正常であることが条件である
  • 医学界では必ずしも知能は正常であることが条件ではない

 

全般的な知能が正常であっても、正常でなくても検査を受けにきたLD疑いの子が

「読み書きの習得」に困難を抱えていることに変わりはありません。

 

「じゃあ知能検査を受ける意味ないじゃん」

 

それもまた違います。

知能の程度によって、トレーニング効果や維持率が異なるからです。

つまり、その後の学習支援を考える際に知能検査の結果が有用になってくるんですね。

 

 

読み書きの習熟度検査によるアセスメント

読み書きの習熟度検査(アセスメント)には、保護者などが質問に答える検査と

実際に読み書きを本人に行ってもらう直接検査とがあります。

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上の図を見てもらうと分かるように、LD検査は保険が使えません

これらの読み書きの検査は、「学校教育現場」で集団単位で実施できるものもあります。

それに、これらの検査の実施には、それほど専門的な知識を必要としません。

ですから、読み書きの習熟度は「学校教育現場」で判断するのが理想だと私は思っています。

先生であれば、より客観的に周囲の子と比べた学習習熟度が分かって良いですよね。

 

 

ただ、医療機関のかかわりが必要なのも現実です。

他の疾患との鑑別や後述する認知機能検査による診断は医療機関が担っています。

また、医療機関が発する「合理的配慮を求める声」の影響力はとても大きいです。

 

 

読み書きの習熟度自体が遅れていることは学習を教えていれば気づきます。

「勉強のやり方が悪い?」「もっと学習量を増やせばきっと…」「なんでできないんだ!?」

そう考えながらも、習熟が進まない子に悩んでいる先生は多いんじゃないかと思います。

 

結局、検査結果が教育現場で生かされなければ意味もないわけですが…

医療分野と教育分野で情報をどのように共有するか、まだまだ課題だらけですね。

  

認知機能検査によるアセスメント

最後に、読み書きの習熟度が遅れている原因が「環境」によるものではなく、

”脳の特異的な認知機能が低下している”ことを確かめるために認知機能検査を行います。

 

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これらの検査は一般的に専門機関で行われます。

脳のどの機能が低下していて、読み書きの習得に影響を及ぼしているかが判明すれば、

別の機能を活用した読み書きトレーニングによる効果が期待できます。

 

 

例えば、失語症の訓練法(バイパス)の考え方に基づいた支援の展開手段があります。

障害されている機能を使わないように、残された機能を使ってカバーしていきます。

例えば、視覚記憶が弱いことが判れば、聴覚を使って学習支援を行う選択肢が生まれます。

 

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LD検査のメリットは診断名を明らかし、周囲への合理的配慮を求めやすくするだけでなく、

本人の読み書き習得の新たな手段や生活の工夫について考えやすくなることも挙げられます。

 

 

ライデック(発達特性研究所)で行っている検査について

株式会社ライデックでは独自の検査バッテリーを組んでLD検査を行っています

 

  ・特異的読字障害(日本語の読み書き速度・英単語の読み書き速度)

     ➡︎URAWSS, STRAW

  ・特異的算数障害(計算障害・算数的推論障害)

     ➡︎特異的発達障害_実践ガイドライン

   ・図形認知機能検査

     ➡︎Reyの複雑図形(模写)

 

tridc.co.jp

 

「わざわざ検査をしてまで”障害”なんてつけるな」

という厳しい意見もあります。

確かに、勉強がただ苦手だった子をわざわざ検査して、

「学習障害(発達障害)者」にすることに抵抗感を覚えるのは当たり前だと思います。

それに…LDは有効な治療法がないんですよね。

 

 

それでも、学習障害の検査をする理由があります。

 

 

それは、介入の手段が判断できるようになるからです

LDの場合、症状をどうにか改善するというよりは、症状が出てしまって生活で困る場面を、

どう工夫して困らないようにしていくかに介入・支援の重点が置かれているように感じます。

 

 

自信をつけるような支援を

私の個人的な意見としては、自尊感情の形成が支援の鍵だと思っています。

発達障害の子どもたちは「できない」の繰り返しで自尊感情が育まれない傾向にあります。

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上のグラフは学習障害(LD)を含む13〜29歳の発達障害者の“自尊感情”を調査した研究結果です。

特に、”自信”や”自己受容”といった下位因子において発達障害者の群で低下が見られています。

つまり、自分の良さに自信を持ちにくく、自分をありのままで受け止められない。

そんな状況が、自尊感情の低下を招いていると考えられます。

 

一方で、”達成動機”や”家族受容”は違いが見られていません。

これは、「失敗しても頑張りたい」といったやる気は十分にあること

「家族から受容されている」という感覚はあることを示しています。

 

 

その子の特性に配慮しつつ、その子の学習面での”強み”を伸ばしていくことで、

その子が「自分はできる」と自信を持てるような支援を行うことが重要ではないでしょうか。

 

 

【まとめ】 

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検査のその先を見据えて

 

検査というのは診断がゴールではありません

 

検査を受けて診断はされたけれどその後の支援についてのアドバイスもなく、

本人や保護者の負担は減らず、生活も以前と変わらないようでは意味がありません。

 医療者は、検査結果を見て診断名だけ伝えて終わり!ではなく、

検査をした以上、その結果を今後の支援に活かすための努力義務があると思っています。

 

そういった意味で、「意味のある検査」と「意味のない検査」があると思っています。

新津田沼メンタルクリニックでは、医療関係者の方に検査に対する注意喚起をしています。

医療関係者の方へ

当院ではここに記したように発達特性に関して検査をしています。
当院での検査は診断に役立ちますが、結果単独で被験者の方の診断を下すツールでは無いことにご留意下さい。
検査をし、それを踏まえた何らかの判断をすることが患者さんの日常生活や職務、学校生活上役に立つかどうかをお考えの上、ご相談いただければ幸いです。
検査をすることに対する患者さん及びご家族の心理的側面にもご配慮いただき、
医療関係者の方には、単に患者さんが発達障害ではないかという疑問だけでご提案されないようにお願いします

新津田沼メンタルクリニック

 

 

そして、受検者は結果をきちんと専門家にフィードバックしてもらい、 

「私は(周囲と比べて)こういう特性があるんだ」

「この子はこういうところに困難を抱えていたんだ」

 と結果を受け止め、

 

「「じゃあこうしてみよう」」 

 

とその後の生活に検査結果を取り入れられる検査であって欲しいですね。

 

 

 

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検査の限界を知り、意味のある検査へ

発達障害は個人によって非常に多様で評価するのが難しいと言われています。

私はそれは”空に浮かぶ雲”を名付けるようだと思っています。

 

 大小は様々で形に決まりはありません。

 あるときは大きく目立つのに、あるときは隠れて小さく見えます。

 見る角度を変えると全く違う形にもなります。

 

 科学的に雲が何モノか検証してみます。

 周囲の景色から推定した雲の高さはOOmです。

 影の濃さ・太陽の光から推定した雲の厚みはOOmです。

 また、気圧配置からみてもOO雲が発達しやすい状況にあります。

 大きさや色の特徴からみても、「OO雲」で間違いないでしょう。

 

このように、定義上の雲の名前が分かっても天気が確実に分かるわけではありません。

例えば、全国の入道雲は全部違うものですし、短時間で雨を降らすとも限りません。

都心で豪雨をもたらして災害になることもあれば、田園では乾季の癒しの雨にもなります。

大事なことは、入道雲の規模や周囲の環境を見てから対応策を考えることです。

 

 

発達障害も様々な検査によって、障害の名前が決められる時代になりました。 

しかし、検査の数字や障害の名前はその人個人を表しているわけではありません。

障害名だけ見て、その人を見ないで対応を決めるのはおかしいですよね。 

 

 

検査はその人の一面しか知ることしかできません

 

 

結論として、私たちは「正解のない医療」もあることを知っておかなければならないんです。

検査は科学的根拠(エビデンス)が証明されていて、質の高い医療につながることが期待できます。

それは非常に安心して支援に使える一方で、全ての人に当てはまる訳ではありません。

その人の語る物語(ナラティブ)を尊重することもまた、生活の質を高める医療につながります。

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「検査結果は絶対必要!」 ではなく 「検査結果は絶対不必要!」 でもなく

 

 

どちらもバランス良く取り入れていく

 

 

検査は絶対ではないと知った上で、検査結果を有効に使っていって欲しいと思っています。

その人が社会でどう過ごしていくか考えていく一助になれば、

「意味のある検査」だったと言えるのではないでしょうか。

 

 

 

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