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発達障害の診断、そして検査の実際 〜その2〜

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目次

 

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⇢前回の記事を読んでいない人はこちらもどうぞ!

 

その3 執筆中 

 

 

【発達障害の検査の実際】

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知能検査だけでは不十分

以前紹介したように、発達障害の診断基準は非常に曖昧な部分があります。

ですので、医療機関ごとに実施している検査は様々です。

 

発達障害の診断ガイドラインを読むと、神経学的諸検査や心理学的諸検査、そして丁寧に聞き取った生育歴、家族歴、現病歴などの結果を総合的にまとめて評価するべきだと書かれています。しかし、診断・評価ツールは数多くあり、その中からどれを実施するかは専門機関に委ねられているのが現状です。

・・・(中略)・・・

定められた診断・評価の手順はありませんが、ガイドラインとなるものはあるようです。十人十色な発達障害の診断には、多種多様なツールを独自に組み合わせて使っている専門機関が多いのではないでしょうか。

(発達障害かどうか?医療者はどのように評価しているのか。 〜その1〜より)

 

それでもやはり、「検査結果」が診断を後押ししてくれると良いですよね。

よく知能検査が臨床の現場で使われています。IQテストというやつです。

能力に偏り(凸凹)が見られれば、発達障害だという認識の人もいます。

知能検査で発達障害の認知特性を評価可能なことは事実です。

 

ですが、知能検査の結果=医学的診断の根拠になる訳ではありません。

 

『日本版WISC-Ⅳによる発達障害のアセスメント』には次のように書かれています。

 

WISC-Ⅳの結果から分かるのは、認知面の症状であり、医学的診断ではない

WISC-Ⅳは、認知面の症状は測定することはできるが、症状の背後にある医学的診断の特定には限界があるという点である。

・・・(中略)・・・

臨床実践で気をつけなければならないのは、すべての臨床群が常にその群の集団としての典型的なプロフィールに合致するとは限らないという点である。すなわち、これまで報告された臨床群の認知特性に関する知見は、その多くが集団としての傾向を表しているのであって、同じ医学診断の人がすべて同じ結果になることを意味しているわけではない。

  

 

(日本版WISC-Ⅳによる発達障害のアセスメント(第4版), 上野一彦ら, 日本文化科学社, 2017より)

 

つまり、下の図のように知能検査で認知機能障害が疑われたからといって、

「原因(診断名)はコレです」という逆行した解釈は困難だということです。

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出典:日本版WISC-Ⅳによる発達障害のアセスメント(第4版)

 

 

例えば、WISC-Ⅳで次のような得点の子がいたとします。

IQは100ですが、言語理解や知覚推理が高いのに対し、

ワーキングメモリーや処理速度が低く、凹凸が見られます。

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このような指標プロフィールは「ADHD」の典型例の一つだとされています。

この数字だけを見て次のように考えて良いでしょうか

 

「ワーキングメモリー(算数)や思考の切り替え(符号)が苦手だ」(認知機能障害)

「つまり、実行(遂行)機能が弱く、注意や行動制御が苦手だ」 (脳神経機能障害)

「だから、注意欠如・多動症(ADHD)だ」(原因)

 

私もIQの数字だけを見て疾患名を邪推してしまうことがよくあります(汗)。

何度も言いますが、知能検査の結果だけで発達障害の診断や鑑別をすることはできません。

あくまで、検査というのは一時的かつ限定的な認知面の状態像を表しているに過ぎないからです。

 

例えば、あなたが学生だったとして大学入試に向けて模試を受けたとします。

そこでは「偏差値」という形で自分の学力が数字で表されます。

 

全教科の偏差値平均は50でした

 

これだけで、偏差値50の人!とレッテルを貼られることはないと思います。

代ゼミの模試?河合塾の模試?どこで受けたか?体調は良かったか?などなど

偏差値を左右する要因が数多くあるからです。

 

IQも同じです。

ウィクスラー式と田中ビネー式では、見ている指標も違うし、IQの算出方法も異なります。

田中教育研究所の調査では、検査によってIQが10以上違うこともあると報告されています。

WISC-Ⅲの平均IQ値が115.6だったのに対し、田中ビネー知能検査Ⅴの平均IQ 値は129.9だったといいます。

田中ビネー知能検査Ⅴ 理論マニュアル

IQ100という検査結果に対して「この人はIQ100の人」とレッテルを貼り、

数字で個人を規定するのは変な話だと思いませんか。

 

人の能力をIQのみで論じることもできない

さらに強調したいのはこれです。 そう、人間の能力は決してWAISのみで測れるものではありません。 なんといっても、下位検査項目合わせたって、たった十数項目です。 実を言うと、こういった知能検査では、いわゆる学習障害は診断できないし、人が人たる行動を取るために必要な前頭葉の能力もほとんど測定できません。

私の患者さんでは、過去に、前頭側頭型認知症で、日常生活を送ることが非常に困難になっている状況でも、IQ116と非常に高いスコアを取られた方がいらっしゃいました。 それに、高いIQ、それも140とか150とかを誇る方でも、日常生活には困ったり対人関係構築能力が低いゆえに能力に見合った学校に通えず、また職にもついていない、ということもあるわけです。 なお、低いIQは基本的には心配です。全IQが70-80くらいからは、他のスコアに相対的に高いスコアがあったとしても日常の様々な点で支援が必要なことが多いのは事実。 なので、IQに関しては、低いと不安だが、高くても安心は買えない、というスタンスで見ることが必要かなと。 知能指数は所詮人間の能力の一側面を表しているに過ぎないので、情報としては有用ですが、それだけでその人の能力を軽々しく判断しないように注意したいものです。

知能指数って1つの数値じゃその人の能力は全然わからないこともあるというはなし - RIDC_JPのブログ

 

   

え?それじゃあ、診断できないのにお金を払ってまで知能検査を受けるの?

と思われる方もいると思います。

それでも、私は知能検査を受けるメリットは非常に大きいと思っています。

 

 

何故ならば、検査で本来期待されているものは…

 

医療者が診断に使うためだけの数値ではなくて、

家族や本人、教師や上司、多くの支援者も使える

これからの生活に役に立てるための情報だからです。

 

 

知能検査に関しては、弊社の別の記事でも詳しく書かれています。

⇢興味のある方はこちらもどうぞ!

 

 

 

発達障害でよく使用される検査

さて、知能検査以外にも発達障害のアセスメントには様々な検査が行われています。

厚労省の資料によると、次のような検査が発達障害領域で使われているようです。

 

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  • 知能検査

    ウェクスラー式知能検査 WISC/WAIS

    田中ビネー式知能検査

    K-ABC-Ⅱ Kaufman Assessment Battery for Children

  • 発達検査

    新版K式発達検査

    日本版Bayley-III乳幼児発達検査

    ASQ-3 Ages and Stages Questionnaire

  • 適応行動(生活能力)の検査

    日本版ヴァインランド適応行動尺度Ⅱ 

    新版S-M社会生活能力検査

    ASA旭出式社会適応スキル検査

  • 情緒と行動の問題の検査

    CBCL Child Behavior Checklist

    TRF Teacher’s Report Form

    SDQ Strengths and Difficulties Questionnaire

    異常行動チェックリスト日本語版 Aberrant Behavior Checklist-Japanese: ABC-J

    日本版感覚プロフィール Japanese Version of the Sensory Profile: SP-J

    反復的行動尺度修正版 Repetitive Behavior Scale-Revised: RBS-R

  • 発達障害(ASD/ADHD/SLD)検査

    自閉スペクトラム症(ASD)に特化したスクリーニング・アセスメントツール

    注意欠如・多動症(ADHD)に特化したスクリーニング・アセスメントツール

    限局性学習症(SLD)に特化したスクリーニング・アセスメントツール

 

 

上記は代表的なものに過ぎず、他にも発達障害の検査に有用なものは存在します。

心理検査専門の代理店では60以上もの検査が「発達関係検査」として売られています

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とても選びきれないほど種類が多いですね…!

 

「闇雲に検査をしても仕方がない」

「信頼性の高いもの一つだけで十分だ」

 

という意見もありますし、それも正しいと思います。

検査のために何度も通院すると、時間もお金も掛かります。

出来るだけ少ない検査で早く結果を出すべきでしょう。

 

一方で、どの検査にも得られる情報量には限りがあります。

複数の検査を受けることでより正確な診断・評価ができるのは言うまでもなく、

得られた多角的な発達特性情報は支援の選択肢を増やすことにもつながります。

 

これら一つ一つの検査結果は診断材料の一つとして活用できるので、

理想としては、得られた結果すべてをまとめて解釈して診断につなげることです。

複数の検査を組み合わせて使う”包括的な評価”が良いとされています。

 

 

 

検査には段階(流れ)がある

検査には大まかに3種類あり、それぞれの目的が少し異なります。

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一次スクリーニングは一般集団を対象にした

「早期に発達障害特性を見つけるためのもの」

二次スクリーニングは発達障害ハイリスク群を対象にした

「特性をASD, ADHD, LDなどに方向づけるためのもの」

診断と評価はスクリーニングで得た方向性をもとに

「特性や症状の度合いなどを測るためのもの」

 

 

 

スクリーニングとアセスメントの違いってよく分からないですよね。

可愛いイラストを使って図にしてみたので参考にしてみてください。 

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もちろん、スクリーニングの検査だけでも診断ができないわけではありません。

特に、二次スクリーニングの検査はアセスメントに値する情報を含むことが多いです。 

検査の流れこそありますが、発達障害の評価に絶対という正解はありません。

 

 

実際のクリニックを例に見てみましょう。

以下は、津田沼のモリシアにある”こころの杜クリニック”の心理検査の流れです。

心理検査の導入から結果説明までの流れ

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という流れで検査の前後で4回来院することになっています。

検査を受けると決めてから、結果が出るまでにひと月ほど時間が掛かりそうですね。

 

当院の心理検査の特徴

当院では、まずは心理師による検査前の面談にくわえてWAIS-ⅢあるいはWAIS-IVを予備検査として行い、全般的な情報を集めます。そこで得られた情報から、たとえば自閉スペクトラム症(ASD)特性が疑われる場合はコミュニケーション能力や柔軟性をみる検査としてADOS-2やEyes-Testなどを実施したり、注意欠如/多動性症(AD/HD)特性が疑われる場合は聴覚性・視覚性の注意力をみるCATやCPT、さらにプランニング能力が弱いと思われる場合にはBADSを行うなど、患者さまの困りごとの原因となっている認知機能の弱みを見つけるだけではなく、その解決につなげるための強みも見つけ、「具体的に何をどうすれば問題が解決されるのか」を目的とした、百数種類ある心理検査の中から有効なものを組み合わせる『オーダーメイドの検査』を行っております

 

このように、実際は心理検査だけを受けることは少なく、

診察や面接を挟みながら心理検査を行うことが多いと思われます。

 

「今どの段階の検査をしているのか?」を知っておくことは重要です。

特に、医療者や支援者は検査結果と診断名を見る機会が多いはずですから、

その心理検査がもつ情報の量と質を意識しておくと良いと思われます。

 

 

 

医療機関によって受けられる検査は異なる

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どこでも全ての検査を受けられるわけではありません。

それは「発達障害の専門機関であっても」です。

発達障害検査が実施されるためには2つの条件が揃う必要があります。

それは…

 

 ⑴ その検査資料が購入されていること

 ⑵ その検査に精通した熟練の専門家(医師や心理士など)がいること

 

⑴の検査資料ですが…ものによっては結構高いです!

「えっ?そんなにするの?」ってくらい高いです。

1枚とかのバラ売りではありませんし、医療機関にも経営というものがあります。

ですので、マイナーであまり使われない検査資料は購入してないことが多いと思われます。

 

また、⑴の検査資料は流通ルートも限られています。

一般個人の方には販売されていませんから、そもそも出版の数が多くないです。

それに、検査によっては大学院を出ているなどの購入資格が必要になってきます。

 

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株式会社 金子書房 HPより

この購入資格は、⑵検査に精通した熟練の専門家にも通じてきます。

正しい知識と経験を持っていなければ、誤った情報を受検者にもたらすことになります。

検査者はセミナーなどの研修プログラムを受けて研鑽を積まなければなりません。

ですから、医師や心理士ならどんな検査もできるなんてことはなく、

その検査のプロフェッショナルがいなければ正確な検査は受けられないんです。 

 

医療機関ごとに受けられる検査は異なります。

 

受けられる検査の種類は事前にネット等でよく調べておいた方が良いでしょう。

 

  

 

 

次→その3 執筆中

 

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