皆さま、
ライデック代表です。
明けましておめでとうございます。
ライデックでは今年も、発達特性からくる生きづらさを少しでも軽くして、過ごしやすくできるようなお手伝いができることを目指します。
このblogでは、これまで同様に「発達障害」や「発達特性」に関連した話題を提供できればと社員一同で、役立つ情報発信をしていく予定でおります。
今年もどうぞよろしくお願いします。
さて、実は昨年末、マイクロソフトストアに弊社と(株)シートカルクさんが共同開発したアプリを上梓しましたので、今日は宣伝です。
題して「Rey-recorder」です! ちょっと値が張るのと、専門家仕様なので、心理系研究者・教育関係者向けアプリです。
このアプリの特徴は、
あの有名な(少なくても心理界隈にとっては)
「Rey-Osterriethの複雑図形」課題
を簡単に施行できる!
です。
今のところ、Windows10限定で、かつタッチ対応ディスプレイのあるPCか、Windowsタブレットでしか動かないのは申し訳ないのですが...
Rey-Osterriethの複雑図形(以下、Reyの複雑図形)とはなんですか?
Reyの複雑図形はその名の通り大変複雑な図形ですが、被験者にその模写と記憶による再生をさせることで、視空間知覚、視空間構成、運動機能および記憶など実行機能系の様々な諸機能を評価できる優れた検査、とされています。
要するにこの複雑な図形を模写するその仕方であったり、模写後一定時間経ってどれだけ覚えているかを実際に描いてもらうことで、その人の持っている空間認知能力や、思ったとおりにどれだけ描けるのか(頭と手はきちんと協調して動くのか)、そして非言語的な記憶能力、などを評価できるわけです。
1941年に、スイスのReyが開発、お弟子さんのOsterriethが標準化した検査なので、Rey-Osterrieth(レイ・オステルリース)の複雑図形と呼ぶのです。でも名前も長いので、会話ではRey(レイ)と略したりしますね。英語では、Rey-Osterrieth Complex Figure Test、略してROCFTと言われています。
歴史的には、脳梗塞や外傷性脳損傷後の高次脳機能障害の程度を知るためによく使われてきており、Osterriethは、外傷性脳損傷後の患者で有意に成績が悪いことを報告しています。
一般に模写と、模写後一定時間経った後の記憶による描画の評価がされて来ましたが、最近では発達障害(ASD,ADHD,LD)特性がこの図形の模写の仕方に反映されているのでは?という観点からも使われています。千葉大と弊社ライデックではASDの方にこの検査が反映する脳機能を改善していくことを目的に認知機能改善トレーニングを行っています。その結果は論文になっています。(Okuda et al., 2018, Neuropsychiatric Disease and Treatment 代表も共著者)
また、高齢者の運転可否の判定に使う検査の1つとしても使っている施設もあるようで、応用範囲は広いといえます。*1
Rey-recorderを使うと何が違うのか?
色々と応用範囲の広いReyの図形ですが、いざやろうとしたときに準備に必要なものが多いことが欠点です。図形を構成する様々な18もの要素(長方形、対角線、長い直線、 三角形、十字など)をどのような順に描くのかを評価するには、ビデオカメラや色鉛筆の持ち替え、そして研究者は基本的にはずっとその場で被検者が描く様子を見守らなくてはいけません。さらに、準備に必要な物が多いだけでなく、 評価する際にも録画したビデオ映像を見るために検査実施と同じ時間を費やす必要がありますし、結果は紙ベースで蓄積する必要があります。
しかし、アプリを使えば、用意するのはタブレットPC1つだけ!です。
この労力の違いは大きいと思いませんか?
タブレットPC1つあれば、すぐに実行可能ですから、従来は施行が難しかった場所でも思い立ったら即実行可能です。
煩雑な準備や管理のために施行をためらっていた心理系研究者さん、臨床家の皆さん、それに興味を持たれた教育関係者の皆さんに使っていただければ幸いです。操作は優しいので、基本的にはどんな方でも使用可能です。
結果はこんな感じ
さて、気になる結果ですが、こんな感じに出力されます。線の脇に振られた数字が描いた順になります。
下記はとあるAさん、Bさんの結果を並べています。
Aさんはかなり忠実に模写できている一方で、Bさんは形・線の歪みが目立ち、図形を大枠で捉えるのが苦手な様子が伺えます。何か物事を認知するときに全体を大きく捉えることが難しく、どうしても細部に目が行ってしまうのかもしれません。
まあ、解釈はともあれ、どうでしょう、このように線脇に数字が振られていることで被検者が模写をするにあたって取った方策が見えやすいのではないでしょうか。
Windowsの画面録画機能を併用することで描き順に関してはよりわかりやすく確認可能ですが、次回バージョンアップリリース時には画面録画機能無しに描き順も再現可能にいたします。
このアプリがRey-Osterriethの複雑図形検査を行ってみたいと考える方のお役に立つことを願っています。
著者は医療少年院で働いた経験のある精神科医です。そこにいる少年たちは当然何かしらの犯罪を犯しているからこそ居るのですが、ある少年にReyの図形を書かせ、驚愕した経験が記されています。あまりにも形が歪み、原型を留めず、複雑図形の構成要素がほとんど壊れてしまっていたのです。
衝撃を受けた著者は、そうか、こういう子にとって世の中がこのように歪んで見えていたとしたら、見る力が(そしておそらくは聞く力も)とても弱いために社会で生きづらく、それが非行に走らせた原因ではないかとの気づきを得ます。
少年院では刑務官たちが少年を更生させようと試みるものですが、そもそもの認知能力が発達してもいない中で単に長く説教したり、反省を促しても意味がない、ということですね。適切に発達していない認知能力のために学習ができず、学校からドロップアウトしていき、犯罪につながった少年が多いのです。
著者は少年たちの認知能力を発達させる様々な試みをしたようで、非常に興味深い本です。
認知能力検査といえば代表的なものがいわゆる知能検査(WAIS、子供向けはWISC)ですが、人の認知能力はそれだけで説明できるものではありません。例えば、人間を人間たらしむる、脳の前頭葉機能はWAISでは十分に測れず、様々な認知能力テストを組み合わせて始めてうかがい知ることが可能です。
普段使わないような検査も含めて、殆どの検査法とその意義についてまとめられた辞書的書籍です。専門家はとりあえず持っておくことをお勧めします。
Reyについてもかなりのページを割いて解説しています。最新の研究成果まではカバーできないのは難点です。
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発達特性研究所 (RIDC: Research Institute of Developmental Characteristics)
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*1:中伊豆リハビリテーションセンター http://bit.ly/2QWxbFj