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知能指数って1つの数値じゃその人の能力は全然わからないこともあるというはなし

代表です。こんにちは。

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会社のtwitterで、知能指数について呟いたところ、予想外に多くの方が反応してくださったので少しまとめてみます。



知能指数、IQと言われますね。Intelligence Quotientの略です。


このIQ、多くは、ウェクスラーの成人知能検査(WAIS)もしくはその16歳までの児童版(WISC)を受けた際の指標として話に出てきます。読み方は、「ウエイス」と「ウイスク」というのが一般的でしょうかね。


現在WAIS、WISCともに第4版(WAIS-IV、WISC-IV)まで出版されていますが、WAISに関してはまだ日が浅く、第3版のWAIS-IIIも一般的に使用されています。


で、この知能指数ですが、よくIQ130だと天才だだとかなんだの言われますよね。


ですが、実際にはIQ1つの値だけだとその人の能力は全然わからないよ、という話です。

特に発達障害の方は、発達の凸凹と言われるわけですが、IQ1つの数字ではそれが表現できないということ。

なんでかというと、まず前提として、WAIS-IIIは階層構造になっています。
検査項目として沢山あるのを束ねて、次々に1つの上位項目の指標にまとめていっているわけですよ。
(ただし、新しいWAIS-IVはこういう階層構造をやめているんですが、まだ一般的とまでいかないのでとりあえずはWAIS-III を例に今日は書きます)

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そういう構造と認識した上で、次の例を。この例は実際の方のものではなく、合成例です。


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こんな結果が示されること多いんじゃないでしょうか。特に左側。
そう、いわゆるIQいくついくつというのは全検査IQという数値のことであり、でも実際には言語性IQと動作性IQという2つの項目から算出されています。

だから、この方は、全検査IQは120という高い数値ですが、内訳は、言語性IQが130と非常に高い一方で、動作性IQは104ですから平均的数値に近い。WAISで測るあらゆる能力に優れているわけでもないんだなとわかります。つまり全検査IQでは120ですが、平均化されてしまっていることで苦手さがマスクされているわけです。


さらに、言語性と動作性という2つのカテゴリーに関して、右側の群指数を見てみると、言語理解のみが高いんだなとわかります。
あぁなるほど、この方は言語能力が非常に高いので、スコアはそれに引きづられて高いんだな、知覚統合処理(WAISでは視覚情報をもとにこなす一連の検査)と処理速度が弱いのね、と解釈するとそれは甘いってものです。


さらに下位検査項目を見ないとこの人の得手・不得手までは論じられないわけです。


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下位検査項目です。ご覧のように、非常に凹凸が激しいのがわかりますよね。
これこそがIQ1つの数字じゃその人の能力を論じられないという理由です。

細かく論じるのが今日の目的ではないのですが、作動記憶のところだけ見てみましょう。

WAIS-IIIの作動記憶は、「算数」「数唱」「語音整列」の3つのテストで構成されています。
同じカテゴリー(作動記憶)にありながら、算数のみが突出して高く、他が低いことに気づきます。


作動記憶は、聴覚的情報を短期間頭に残して課題処理を行う、いわゆるワーキングメモリを見ているもので、ADHDの方は苦手な人が多い。

ですが、よくそのスコアを見てみると、この例のように同じ作動記憶内でもスコアがばらついている人が結構多いのですよ。


「算数」は文章題を検査者から提示されて、それを頭に問題を残しつつ、暗算で計算することが求められます。
なかなか難しいですよ。それをこの人は最高点数近くとっているわけですからとてもスゴイ。

一方で単純な数字の復唱や、数字とアルファベット・かながバラバラに提示されて頭でそれを文字種ごとに整理して言い直すことが要求された場合には点数が随分低くなってしまう。


どうでしょう。
内容に興味が持てれば集中力を発揮して高い能力を発揮する一方で、つまらなかったり、疲れてしまうと途端に注意力が落ちるADHDの過集中と不注意の特性がよく出ていると思いませんか?


これを、あ、IQ120もあれば安心ね、とか、作動記憶は100程度、平均的なんだなと単純に解してしまうと、この人の能力を正確に把握していることにはならないはずです。


IQは数字1つで語っても意味がないことがある、特に発達障害特性の、能力の凸凹を論じるにはまったくもって情報量として足りない、ということがおわかりいただけたかと思います。


人の能力をIQのみで論じることもできない


さらに強調したいのはこれです。


そう、人間の能力は決してWAISのみで測れるものではありません。

なんといっても、下位検査項目合わせたって、たった十数項目です。

実を言うと、こういった知能検査では、いわゆる学習障害は診断できないし、人が人たる行動を取るために必要な前頭葉の能力もほとんど測定できません。私の患者さんでは、過去に、前頭側頭型認知症で、日常生活を送ることが非常に困難になっている状況でも、IQ116と非常に高いスコアを取られた方がいらっしゃいました。


それに、高いIQ、それも140とか150とかを誇る方でも、日常生活には困ったり対人関係構築能力が低いゆえに能力に見合った学校に通えず、また職にもついていない、ということもあるわけです。


なお、低いIQは基本的には心配です。全IQが70-80くらいからは、他のスコアに相対的に高いスコアがあったとしても日常の様々な点で支援が必要なことが多いのは事実。


なので、IQに関しては、低いと不安だが、高くても安心は買えない、というスタンスで見ることが必要かなと。


知能指数は所詮人間の能力の一側面を表しているに過ぎないので、情報としては有用ですが、それだけでその人の能力を軽々しく判断しないように注意したいものです。

自分を知り、自分をかえていく