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発達障害とその特性の持つ強みについて

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代表です。

今日出した画像、左は言わずとしれた作曲家のモーツアルトです。曲を知らない人はいない、史上最高の大作曲家といってもいいくらい偉人ですが、とんでもなく下品な言動や下ネタ満載の手紙、妻コンスタンツェとともに浪費しまくりでいつもお金を欲しがっていたことでも知られています(映画「アマデウス」で描かれました)。 典型的なADHDの特性を沢山持っていますよね。


もう1人右の方は、18世紀〜19世紀初頭にイギリスにいた化学者、ヘンリー・キャベンディッシュです。こちらはご存知無い方も多いと思いますが、水素の発見をはじめ、数多くの科学的業績を持っているのです。ただ、父から引き継いだ広大な屋敷の中に閉じこもり、1人黙々と実験を続け、極度に非社交的、家政婦にすら会いたくなかったようです。逸話の数々はASDであることを示唆しています。


さて、この2人とも発達障害特性が偉業に良い方向で影響していたと思うのですが、発達障害についてはやはり「障害」と括られることで否定的なことが書かれることが多いですよね。



発達障害の持つ特性が障害になる一方かというと、そんなわけでも無いというのが今日の論点です。
もちろん、上に掲げたような才能あふれる人基準で考えてしまうとまた違うのですが、もっと普通にいる「特性持ち」の人の強みがどんなところに発揮しうるか、という話です。




特性の強みに関しては、例えばASDでは⇓のような就職関連のサイトで、こだわりを上手く活かせば…とか、人が退屈に思うことでも不満を言わずに作業レベルを落とさずに長時間継続できる、といった文脈が多いかと思うんです。


hataraku-chikara.jp



ただ、一方でそれは「障害者」の枠の中でこういった強みがありますよ、と言うだけであって、障害と無関係な積極的な強みとして語られることは少ないのは仕方が無いとは言え残念な部分です。



ASDもADHDもその特性は条件が揃えば強みになることが
条件が何か、というのは少し置いておいて…

空気が読めないこと、こだわりが強いこと、不注意であること、がそれぞれ強みに成りうるか考えてみましょう。


・空気が読めない
日本人はその場に居る立場が上の人を慮って議論を停滞させる傾向にあるのは周知の通りです。

なので、空気を読んで発言すること、が大事と強調されたりもするわけですが...

改めて考えてみましょう。

空気が読めない、ことは誰に対しても声をあげられるという素敵な面を発揮できるはずです。

なあなあで済ませてしまうもしくはそのようになってしまった中でも、余計な私情を挟まず誰かを特別扱いしない、裏表なく公平といった非常に公正な人になり得るのです。


良い方向に働ければ能力の高いASDの方は理想的な上司にもなり得るのではないか、と思います。

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例えば、代表の知人に明らかにASDの方がいます。彼はとても公平無私で、判断は常に合理的。理を大事にします。社会人なりたての頃は上司にとって、融通の利かない、上司にも正論をもって楯突く煙たい感じの評価を受けていましたが、能力が高いため出世し、今では部下にその能力と公平さを慕われています。パワハラとセクハラは彼から最も遠い言葉です。


ASD(傾向)があって活躍している人は「外国に居るほうが楽」と語ることが多いようにも感じます。英語圏では敬語もなく、議論においても上司や教授など権威に対してもファーストネームで呼び合い、また声を上げること自体が評価されるために、英語圏では能力を発揮できる条件が1つ多いと言えそうな気がしますね。*1

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日本に戻ってくると途端に窮屈になる…この傾向はADHDにも言えます。そう、ADHD特性に衝動性、多動がありますがそれは外交的性格と重なると積極的な社交性に繋がり、日本人らしからぬ「空気を読まない実行力」「疲れを知らない行動力」となり得るでしょう。楽天三木谷社長はADHDの気があるかも、と発言しているようですが、頭の回転が早くアイデア豊富なのはADHD特性に源泉があるのかもしれません。衝動的にぱっと考えを口に出すのは日本社会には合わず、やはり海外、特にアメリカにマッチする方は多いだろうと思わせます。


いずれにしても、空気を読めない、というか周りを気にしないことは、特定領域の公務員、技術者、研究者、資格職にとって強みになることが十分にあるはずです。


・こだわりが強い
ASD特性の1つですが、これも特定職種にとってはとても重要な資質になりうるものです。

手順を確実に守り、疲れても手抜きしない。ルーティンを大切にして、ぶれない生活を守る。慣れてくると技術的には手抜きをしたり、特定の人や業者などに対しては融通を利かせすぎてしまうのが普通の人という感じだが、そういう袖の下を通さず、規律を遵守するのが得意というのはASDの強みと言っていいものです。*2


・不注意なればこそ
認知科学における注意と言う場合には、今起きている物事や周囲に適切に注意を分配する、例えば、何かに集中していても声をかけられたらそちらに注目するといったことも注意機能に含まれます。これはADHDが苦手とする機能。


しかし、特定のものへの熱中に度が過ぎて、話しかけてもまったく聞こえないというような過集中という性質は、特定分野においては強みでしょう。

注意の分配が適切にしっかりできることは、マルチタスキングに有利ですし、どちらかといえば女性が高く持ちうる能力ですが、ただでさえADHD的要素の強い男は、逆に過集中できるからこそオタク的、マニア的知識や技術習得に役立っていると言えるのでは、と。



・特性を活かせる条件とは何だろう
身も蓋もない部分でもありますが、一定以上の知的能力、技術習得能力は必要なのでそれが前提ではあります。

特性そのものが問題になってしまうのは、特性を欠点としか認めてくれない環境条件もありますが、持ちうる能力が足りないことも多い...ので能力は伸ばす必要があるわけです。


ですが、本来は素晴らしい能力を持ちながらも、環境がその能力の発揮や、向上を許してもらえない状況にある発達障害者は多いのです。

養育・教育に携わる人に考えてほしいのですが、大勢の健常者を凌駕するような何かの能力に長けている場合に、別の部分の困った特性を修正することにこだわって時間を費やしてしまってはもったいないです。


能力の凹凸を均すことに努めず(少なくてもある程度は)認めてあげられる環境づくり、というのが条件とも言える気がします。周りの人には、持ちうる得意な能力を伸ばす手助けをしてもらえたら、と思います。


子供にバランスの整った能力発達を求めているらしいのが文科省です。一見良さそうですが、バランス重視というよりも尖った部分を評価する社会の方が発達障害者にとって生きやすいのではないかという気はします。やはりアメリカやカナダにおける教育状況を聞くと殊にそう思います。伸ばせる能力は伸ばして欲しい。

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日本の公立小のクラスを見ると、ほんとに横並びの進度を大事にしているように思えますが、もっと柔軟に生徒の能力を伸ばす方向にいけませんかね...。進める子は思いっきり進めることができ、伸び悩む子には進度をゆっくりするような。




さて、幼児期には十分に人に対する信頼を構築することが重要です。


そうでないとASD特性にはどうしても刺激によっては被害的になりやすい部分が出てきますし、ADHD特性があると挫折に弱く悲観的になりやすい側面が感じられます。

人との良い関係を築けていてさえ、そういった部分は残るので、当事者であればそれも自覚する、自覚できることが自らの持つ能力を発揮できる条件といえる(はず)でしょう。自身を知ること、客観的に把握する能力をメタ認知(⇛https://ja.wikipedia.org/wiki/メタ認知)と呼びます。


特性を活かすキーワードは、能力、環境、メタ認知、とまとめてみたいところです。

*1:科学研究の場では特にこのメリットが大きい気がします。研究に関しての議論で、相手が教授だからと言葉遣いに気を配りながら話すのは大変まどろっこしいものです。

*2:ADHDはむしろ逆というか、手順を守るための注意力を維持できない、つい手順を飛ばしてしまう、ミスをするといった面があるので、こちらは明確に改善が必要な場合が多いですね。とはいえ、過集中できるほど熱中できることに関しては妥協を許さない人が多い印象も持ちます。

自分を知り、自分をかえていく